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SSときめく時の中で。外伝(7)157-Line
ときめく時の中で。外伝(7) (220話前後)
YES MY SWEET
ジングルベルが鳴り響く12月初旬の休日、美樹原愛はきらびやかなディスプレーに
彩られた商店街を歩いていた。
地元の短期大学に入って1年目、大学でも友人が出来た。
ただ、女性だけの短期大学では、かなり話題が限定された。言うなれば異性の話題で
ある。
愛とて、そういう話に全く興味がないわけではない。が、進んでそういう話題に加わ
ろうとはしなかった。
というのは、話題の内容が「彼が欲しい」とか「合コンがあって、そこで・・・ 」と言
うような話題になりがちだったからである。
愛はそう言う話題には、ほとんど興味がなかった。なぜなら、
「私には和人くんがいるもん」
と、いうわけである。
ただ、妙な反発をされてしまいかねないと、それをあまり公言はしてこなかった。
隠すわけでもないが、公にしているわけでもない。彼女は、そんな微妙なとらえ方
と、言動を取っていた。
正直に言えば、誰かれ構わず、自慢の恋人、和人を紹介してしまいたい心境だった。
なにしろ二人は、正式に付き合い初めてから2カ月と経っていないのである。
弾む心を抑えることは、並大抵の努力で済むようなものではなかった。
「ごめーん。待った?」
商店街の中ほどにある喫茶店で、愛は中学以来の親友、藤崎詩織と待ち合わせをして
いた。
先に来ていた愛に、遅れてきた詩織が謝りながら、愛の前に座った。
「あ、私はレモンティーをお願いします」
コートを脱ぎながら、ウェイトレスに詩織が注文する様子を、愛はずっと見つめてい
た。詩織がその視線に気付く。
「? メグ、どうしたの? そんなに私の事、見て」
「え? ううん。別になんでもないよ」
「そう? ところで、映画、まだ間に合うの?」
「うん。きっと詩織ちゃん遅れると思って、余裕をもっておいたのよ」
「あー、ひどーい」
そう言って、詩織は頬を不満げに膨らませる。
「嘘よ。私の今来たところなんだから。ゆっくりしていく時間ぐらいはちゃんと取って
ありますよ」
「はいはい」
詩織は苦笑いに近い笑いを浮かべた。
二人は映画を見る約束をしていたのだが、上映時間まで、そこで時間をつぶした。
そこでの会話の中、詩織の言葉に、愛は意表をつかれた。
「え? 吉野君が和人くんの事を?」
その事をそのまま表す愛の口調に、詩織はしてやったりというような表情で、今言っ
たことを繰り返す。
「そう、この前、下校の時、将くんと領家君と一緒になったのよね。
その時、領家君が将くんの家に泊まりに行った時の事を話してくれたの」
詩織のその言葉に、愛が興味津々と言った表情を浮かべると、詩織は先程までの表情
に満足そうな成分まで加えて、いよいよ本題を切り出した。。
「寝る前にね。領家君、今日、メグがどうした。こうしたって顔赤くしながら話すんだ
って、将くん嬉しそうに話すの。
で、その時の領家君ったら、私の前でもうこれ以上ないぐらいに顔を赤くしながら、
”やめろーー、やめてくれー!!”
って将くんを止めるのよ。
もうおかしいと言うか、微笑ましいと言うかって感じだったわね」
詩織はそこまで言った後、愛に視線を向け、まるで勝ち誇ったように言った。
「ちょうど今のメグのような顔の赤さだったわね」
愛はうつむきながら、小さな声で言った。
「詩織ちゃんの意地悪」
映画が終わり、愛と詩織は街中を歩きながら話し込んでいた。
「領家くん、試験勉強頑張ってるみたいね? 大切なメグを、ほったらかしにしてるぐ
らいだもん」
「そんな、やめてよ。詩織ちゃん」
「あら? そうなの? フォークダンスの時の事件、有名なのよ」
「やだ、もう」
冷やかすような詩織の声に、愛はやはり顔を赤く染めたのだが、実際のところ、そこ
にはまんざらでもないと言った感じがあった。
愛は笑いを押し殺すように、ゆっくりと続けた。
「和人くん、試験に向けて頑張ってるから、邪魔しちゃいけないもの」
「 ・・・勉強、教えてあげればいいじゃない?」
「あのねえ詩織ちゃん。和人くんのレベルって、すっごく高いのよ。
私じゃ無理よ。見晴ちゃんだってお手上げみたいなんだから。
見晴ちゃんが言うには、ひょっとしたら和人くん、期末、トップ取るかも知れないっ
て事なの。
それじゃ、私にはちょっと無理だなって」
「ふーん、そうなんだ。領家くんってすごいのね。
そうか。それで私が、呼び出されたって訳なのね?」
詩織は再び冷やかすような口調になった。なにしろ愛の口調は、少しばかり、「のろ
け」が入ったものになっていたからだ。
だがこの時、愛の表情に暗い影がさした。
「ねえ、詩織ちゃん?」
「? なあに?」
「詩織ちゃんは、人思くん、・・・ 君本くんと離れてて、寂しくないの?」
「え? 何? 突然?」
「だって。イギリスと日本と離れ離れで、会いたくたって、そう簡単には会えないじゃ
ない。
私、自分でもすごく恥ずかしいとは思うんだけど、和人くんとほんのちょっと会えな
かっただけで、すごく寂しくなっちゃうの。
頭では判ってるのよ。和人くん、今、とっても大事な時で、邪魔しちゃいけないとは
思うの。いつまでも会えないと言うわけでもないんだし、電話だって出来るのに、会え
ないと言うだけですごく寂しくなっちゃうの。
そこ行くと、詩織ちゃんはやっぱり、すごいなって思うんだ」
ため息をつくような愛の言葉に、詩織は首を振る。
「そんな事ないよ。私だって寂しくてしょうがない時、よくあるわよ。
だけど、イギリスなんてあまりに遠くて、かえってあきらめがついちゃうのよ。
側にいると、それが逆に寂しくなっちゃうんじゃないのかな?
それに私とトシくんの場合は、小さい頃からの付き合いでしょ? メグと領家くんは
付き合い初めて、まだ、そんなに経っていないから、余計にそうだと思うわよ」
愛はそう言われて、右手を口に当てた。
(そうなのかも知れないな・・・ )
内心でそんな事を考えていた愛だったが、愛が戸惑っていたのは言葉にした事だけで
はなかった。
自分の中に沸き起こっている生まれて初めての感情は、彼女を不安にさせていた。
こんなに人を好きになるなんて思わなかった。そして、さらに、和人の影響を受け、
こんなに自分が変わっていくなんてと、自分自身が驚いていた。
男性と付き合うという経験が、いままでになかった愛は、恋をすると言うことがこん
なにも苦しいものだとは、思ってもみなかった。
いや、少なくとも、「片思い」の苦しさは知っていた。だが、「両思い」になってか
らも、これほど苦しい思いをするとは・・・
「会いたい」「顔が見たい」「声が聞きたい」そして「寂しい」
心の底から沸き上がる声は、抑えようがなかった。
詩織と別れた愛は、その足で、和人の住む館林の家へと向かっていた。
会おうとしているわけではなく、ただ、和人のそばに、一時でもいたかった。
ただそれだけだった。それ以上は何も望んでいなかった。
だが、愛が玄関先に近づいた時、まるで、タイミングを計ったようにそのドアが開い
た。
「和人くん!?」
愛は無意識のうちに声を上げていた。
そこには愛にしか向けた事のない、和やかな笑顔を浮かべた和人がいた。
「部屋から、愛が歩いてくるのが見えたから・・・ 」
やや、照れたように和人が言った時、愛は和人の元へ駆け出していた。
(和人くん、和人くん、和人くん)
心の中で、その名を連呼して、和人の側に来た愛だったが、何も言えず、そのままう
つむいてしまうのだった。
「あ、あの・・・ 」
やっとのことで口を開いたが、そこから先が続かない。
(和人くんは知らない。私がどんなに和人くんの事が好きなのか・・・ )
愛しさにつのる想い。
恋しくて涙があふれそうになった夜。
高鳴る胸の鼓動に息苦しさを覚え、心がきしむ音を聞いた日。
言葉にしたくとも、言葉だけが上滑りをしてしまい、決してこの想いを伝え切れない
だろうと愛は思う。
それがじれったくて、悲しささえ覚える愛だった。
「?」
そんな愛の頭に和人の右手が乗り、ぽんぽんと軽くたたいた。
「和人くん?」
不思議そうな表情で愛が顔を上げると、そこには優しく微笑む和人の顔があった。
「俺も、愛に会えなくて、すごくつまらなかったよ」
「和人くん」
愛はこの時、改めて思った。いや、正確には思い出したと言うべきだろう。
恋は、苦しい事だけではない、と言う事を・・・。
---------------------------------------------------------------おわり
後書き
うーーん。転がる転がる。
いやあ、とにかく甘い話を書きたいというのが始まりだったのです。
このころはまだ、二人とも片思いのような両想い。と言うところでしょう
か?(^_^;)
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