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ときめく時の中で、外伝(6)
激突3ON3 110話前後
「3ON3?文化祭の?」
昼休み、弁当を食べながら将は優美に聞いた。
「そう。その3ON3の大会に将君、優ちゃん、和人の3人で出場して欲しいんだあ」
「私も!?」
「俺もか?」
傍で聞いていた四本松と和人が調子のはずれた声を出す。
「そう。この3人で出て欲しいの」
「俺、3ON3どころか、バスケだってまともにやった事ないぜ」
そう言った和人に四本松が続く。
「わ、私だって」
「大丈夫だよ。優美が保証するよ。この3人ならちょっと練習すれば、相当いい所まで
行けるよ」
胸を張り自信満々の優美に、将がいぶかしげな表情で聞いた。
「早乙女え、何を企んでる?」
「え!?な、何の事かな?優美わかんないな」
彼女には俳優の素質はなさそうである。
「早乙女!」
「早乙女!」
「優美ちゃん!」
3人同時に詰め寄られ、優美は演技がミエミエの泣きべそをかく。
「ふえーーん。ごめんなさーーい」
「はーーーっ」
その姿を見て3人は三者三様のため息をこぼした。
バスケット部は新チームの編成にあたって、優美を女子部のキャプテンに選出した。
それを聞いた和人などは、
「バスケ部は命知らずか?」
等と口走り、優美のウエスタンラリアートを食らったりしたのである。
が、和人の思惑はともかく、それ自体はバスケ部の中では異論のない人事だった。
しかし、ここから話しは少し複雑になる。
3年生に戎谷淳という男子部員がいた。
彼は一応部員にはなってはいるのだが、ほとんど幽霊部員となっていた。
そのくせ試合となると戦力になってしまうという、ある意味困った存在であった。
更に、これは直接バスケットには関係ないものの、彼は校内でも名うての
プレイボーイであり、そういった面からも反発をかう事もあった。
もっともこれに関しては、十一夜恵という特定の彼女ができてからは、
だいぶ収まったのであるが。
その戎谷は、事あるごとに優美をからかっていた。
彼にしてみれば優美は妹のような存在であり、優美にしても兄のような付き合い方を
していたものである。
その日もいつもの様に優美をからかう戎谷だったのだが、どうもおかしな事になって
しまった。
事の起こりは、新キャプテンとなった優美の力量を疑うような言い方を、戎谷がした
事だった。
それは彼なりに心配した上での事だったのだが、タイミングが悪かった。
いつもなら怒った振りをして軽く受け流す優美なのだが、正直言ってキャプテンとい
う大任に不安を抱いていた優美は、つい、トゲのある言い方をしてしまった。
そこからはもう売り言葉に買い言葉で、気が付いたら文化祭の3ON3の大会で,素人
をどこまでものに出来るか?という事になってしまったのである。
「はーーーっ」
話を聞いて3人の口からは再び三者三様のため息が漏れた。
「駄目かな?」
両手を顔の前であわせて頼む優美に将が答えた。
「まあ、俺はいいけどさ。・・・二人はどうなの?」
将の質問に四本松が答える。
「私で良ければやってみるわ」
「将と四本松がやるんなら、・・・まあ、やるけどさ」
「じゃあ、決まりだね。さっそく今日から練習だよ」
「おいおい」
そんな声を無視して優美の瞳には赤い炎がメラメラと燃えていた。
「・・・・」
あとの3人の目は点になっていた。
文化祭当日、なんだかんだと言っても将達のチームは準決勝にまで駒を進めていた。
準決勝の相手は優美が「優勝しなくてもいいから、ここだけには負けないで」
という、芹澤勝馬、伊集院レイ、そして早乙女好雄の3年生のチームだった。
なぜここに負けたくないかというと、芹澤という3年生は戎谷の親友であり、このチ
ームのバックにはその戎谷がいるのだ。
加えて、兄好雄もこの話に絡んで来ており、兄妹の意地もあいなって、優美としては
絶対負けられない相手だったのである。
この対戦を見ようと多くの観客が体育館に詰め掛けていた。
理由は様々である。もともとこの両チーム、普段から注目を集めるメンバーが揃って
いた。
プレイボーイとして名高い戎谷、伊集院。テニス部の男女の両エース、将と四本松。
隠れファンが多いことで知られる和人。1年生に絶大な人気がある優美。
よくもまあこれだけのメンツが揃ったと言われるのである。
加えて芹澤勝馬のチームは昨年の優勝チームであり、将達のチームもこの日、ずいぶ
んと目立つ存在となっていた。
なぜ目立ったか?と言うと、将達の試合はとにかく派手だったのである。
優美が将達に教えたのはオフェンス中心だった。短い時間であれもこれも教える事は
不可能であると思った優美は、将達の性格的なものまで考えて、攻撃に力を入れたので
ある。
ディフェンスは将達のセンスと運動量頼りと言う、大雑把と言えば大雑把、それしか
ないと言えばそれしかない作戦であった。
ゆえに将達の試合は、毎回激しい点の取り合いとなった。
将の言うところの「ノーガードで打ち合うボクシングのようなもの」
と言う試合だったのだ。
見ている方は面白いと言う訳である。
体育館の観客用のスペースが七分ほど埋まる中(大入りである)試合は始まった。
左手でドリブルしながら、右手の人差し指を一本立てて和人は言った。
「取り合えず一本ね」
将達のチームの司令塔は和人だった。
「和人には相手をだます役をしてもらおう」
優美の提案に将も四本松も同意した。和人は不服な顔をしたのだが、適材適所の見本
のようなものだった。
その和人のマークに付いた芹澤勝馬は内心こう思っていた。
(戎谷め、”相手は素人、楽勝”なんて言ってたけど本当かよ? 素人のするドリブル
じゃないぞ)
そんな勝馬の心理を見透かした様に、和人はドリブルで切れ込もうとした。
「させるか!」
勝馬のタイトなマークに和人はパスを出そうとする。
「優!」
「はい!」
早乙女好雄のマークを軽く振り切り、フリーになった四本松へのパスコースに、素早
く伊集院が入り込む。しかしそれは和人のフェイクだった。
ボールを持った両手を交差させると、右手一本で背中越しに、左方向の誰もいないス
ペースにボールを出したのである。
いやそこには将が走り込んでいた。正確に言うなら跳んでいた。
もっと正確に言うならジャンプして上昇している途中だったのである。
そちらを見もしないでパスを出す和人も和人なら、それをしっかり受け取る将も将で
ある。呆れるほどのコンビネーションだ。
将はそのままゴールに向けて跳んで行った。その将に反応したのは勝馬である。
将の行く手を遮るために横方向から飛び込んで来た勝馬を、将は身を猫の様に丸めて
かわしてしまった。
「エアウォーク」
本家ほどの派手さはないにしろ、それはまさしくエアウォークそのものであった。
あまりの一瞬の事に何が起こったか周りの観客などが理解できぬ内に、将はゴール目
指して跳んでいたが、ボールはあらぬ方向へ飛んで行った。
いや、そこには今度こそ正真正銘、完全にフリーになった四本松がいた。
派手さはないが堅実なレイアップシュートで、四本松はボールをゴールに入れた。
歓声が上がった。先取点である。
「カツ!」
コート脇からの戎谷の声に勝馬は左手で答える。
(判ってるって。こいつは面白くなって来たぜ)
ドリブルをする勝馬をマークしたのは将だった。
だが、勝馬がくるっと身を翻し、一瞬将の視界からボールを消したと思った時、既に
勝馬の手の中にはボールはなかった。
「えっ?!」
あっけにとられた将が、
「伊集院様あーーー!」
という黄色い歓声が上がって初めて、ボールが伊集院の手にあることが判ったほど、見
事なトリックプレーだった。
華麗、ごく普通のジャンプシュートが、伊集院だと華麗なジャンプシュートとなる。
その華麗なジャンプシュートから打ち出されたボールは、リングの中央を通った。
「ナイス!伊集院!」
好雄の声に前髪をかきあげながら伊集院が答える。
「ま、君達庶民には無理だろうが、僕にかかればこのぐらいは当然だよ。
ハーーハッハッハ」
高らかに笑う伊集院に、勝馬と好雄は顔を見合わせ苦笑いである。
「芹澤君、調子良さそうね。奈津江ちゃん」
「まあね、やる前はさんざん渋っていたけど、いざ本番になれば熱くなるんだから、あ
いつは」
コート脇にいる戎谷の傍らに二人の女生徒がいた。
大きなピンクのリボンが目立つのが戎谷の彼女、十一夜恵。
もう一人の方が芹澤勝馬の幼馴染にして彼女の鞠川奈津江である。
「なあ、二人はどっちを応援するんだ?」
戎谷は二人に聞いた。優美との経緯を二人は知っているからだ。
「私はもちろん戎谷君よ」
即答する十一夜に対して、奈津江は少し間をおく。
「バスケット部のキャプテンという立場からすると中立だな、私は」
「ま、そうだろうな」
「勝つよね?戎谷君」
十一夜の質問に答える。
「どうかな?少なくとも苦労する事は確かだね」
その通り、試合は一進一退の好ゲーム、いや激闘の様相を呈して来た。
点は取り合ってるのに膠着した感じがする奇妙な状態になっていた。
その状況を打破するために、戎谷が早乙女好雄との交代を申し出た。
「あっ!ずるい!それなら優美も出るよ!」
優美がそう言うのには訳があった。この大会の規定ではチームに一人までは、バスケ
ット部員が入っていい事になっていた。
だがそれはあくまでもリザーブであり、試合に出るには双方の合意が無くては
ならなかったのである。
優美の抗議は当然のものであった。だが、それを将達3人は止めた。
「まあ、任せておけって、早乙女」
「素人の俺達がやるのが条件だろ」
「監督はそこで見ていてね」
荒い息の中、3人にそう言われ、優美は椅子に座りなおした。
(うん、頑張ってね。将君。和人。優ちゃん)
優美は心の中で祈った。
だが、さすがにバスケット部員の戎谷の加入は、将達には荷が重かった。
殊に強化されたディフェンスは難題だった。
戎谷、勝馬コンビのディフェンスは将達の攻撃を次々と阻んでいった。
将達の攻撃パターンが、実は少ない事を戎谷は見抜いていたのである。
じりじりと点差は開いて行く。その状況の中、和人が将と四本松に指示を出す。
「このままじゃジリ貧だ。一か八かアレをやるぞ。いいな?四本松」
四本松は大きく息を吐き出しながら頷く。
「いいな?将」
「判った」
例によって和人からスタートした将達のオフェンスは、奇妙なシフトをとった。
和人とクロスしてボールを受けた四本松は、コート端にドリブルして行った。
「何を?」
会場中がそう思ったその時。
「えい!」
かけ声と共に四本松の右手からワンハンドスローで投げ出されたボールは、ものすご
い球速を保ちながらゴールに向かって飛んで行った。
「なに!?」
勝馬達は知らないのである。
「もう少し身長があれば男子並みのサーブの持ち主」
というテニス部内の一致した意見を四本松が得ている事を。
まさか女子がそんなボールを投げるとは思わなかった勝馬達は、まったく反応できな
かった。
だが、そのボールはゴール左手、約1メートルにずれていた。
「!?」
そこに将はいた。跳んでいた。
左手でそのボールを受けると、そのまま最短距離でリングにボールを叩き込む。
その瞬間、体育館が大歓声に包まれた。
「うおーーー!!何だあれはーーー!!!」
「信じられねえーー!」
「こいつら本当に高校生かあ!!」
いくら派手なプレーをしようと入る点数は変わりはない、だが、精神的なショックは
戦況を一変させた。
四本松があんなパスを供給出来るなら、マークに付かない訳にはいかない。
だがそれは、ディフェンスラインが間延びする事を示していた。
和人と将の息のあったコンビネーションは、そんな間延びしたディフェンスラインを
ずたずたに引き裂いて行った。
中立と言った先程の言葉を忘れて、たまらず奈津江は叫んでしまった。
「ちょっと勝馬!しっかりしなさいよ!!」
コート脇からの叱咤に対して、息も絶え絶えに勝馬が答える。
「奈津江にだって見れば判るだろ!!・・・こいつら強いんだよ!!」
それは彼だけの意見ではなく、会場内の人間すべての意見であった。
だが将達自身のディフェンスの弱さと、一度開いた点差は致命的であった。
結局、開いた点差を埋める事ができずに将達は敗れた。
スコアは37対32であった。
荒い息の中、勝馬と戎谷は会話を交わす。
「戎谷、・・・冗談じゃ、・・・ねえぞ・・・」
「文句なら、・・・優美ちゃん、・・・に、・・・言ってくれよ」
そんな二人に伊集院が声をかける。
「君達、・・・だらしないなあ、・・・これしきの、・・・事で」
「お前、・・・説得力、・・・無いぞ」
勝馬と戎谷の声が揃った。
「ごめん、偉そうなことを言っておきながら負けちゃったよ」
体育館の隅で、3人を代表して将が優美に謝る。
「ううん。元はと言えば優美が変な意地を張っちゃったのがいけないんだもん。
謝るのは優美の方だよ。ごめんね。それからありがとう」
「・・・早乙女」
「優美ちゃん」
目に涙をためながらも必死に我慢している優美の姿の前に、将達はそれ以上、何も言
えなくなってしまった。
「よ!早乙女!」
そんな時、声をかけて来た者がいた。戎谷である。
将、和人、そして四本松までが彼に向かって視線を向ける。
「おいおい。3人してそんな恐い目で俺を見るなよ」
戎谷がそう言うのも無理はない。
(優美に何か言うようなら受けて立つ)
3人の表情はそんな決意を物語っていたからである。
和人などは後に
「もしあの時、早乙女を馬鹿にするようなことを言ってたら、
上級生だろうとなんだろうと、あのきれいな顔に一発入れてたよ」
と明言するほどである。
戎谷は優美の頭に手を乗せると、髪をくしゃくしゃ掻きながらこう言った。
「まったく、お前には負けたよ。キャプテンをやるのはお前しかいない。
俺が保証するよ」
「戎谷先輩?」
「そうだよ優美」
さらに後ろから声がかけられた。
そこには奈津江が立っていた。勝馬、十一夜そして好雄もそばにいた。
「二人ともちょっと意地を張りすぎただけなんだから、もう水に流そ、ね?」
「ふえーーん。奈津江せんぱーい」
耐えきれず泣き出した優美は、奈津江にしがみついた。
「バスケット部を頼んだよ」
「はいーー」
泣きながらそう答えた優美を見て和人は将に言った。
「大団円だな」
「そうだな」
四本松もそれに頷いて肯定した。
あとは優美が泣きやむのを待つだけである。
ちなみに、3ON3大会は勝馬達のチームが、2年連続の優勝をする事となった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−終
後書き
本来、詩織がテニス部になった時点で「ときめく時の中で」に
芹澤勝馬達は出て来ません。
世界が違うからです。
ですが、私の中の将達への思い込みが大きくなるにつれて、
(絡ませて見たいなあ)
と思った訳です。
本編では無理ですが、外伝ならよかろうと思った訳です。
言ってみれば「マジンガーZ対ゲッターロボ」ですね。(ふっ古い!古すぎる!!)
世界が壊れていますから「詩織は何部だ?」とか、「バレンタインはどうなった?」
とか聞かない様にして下さい(爆笑)
で、外伝と言うのは総集編に付けるか、メール配布するかで、PATIOなどには
アップしないスタンスをとって来たのですが、これを作った時、
「あれ?これならアップしてもいいんじゃないか?」
と思って PATIOにアップする事にしました。
他の外伝と随分毛並みが違いますからね。
芹澤勝馬達が脇役になっちゃってますけど、一応「ときめく時の中で」の外伝
という事なんで、ご容赦願いたいと思う訳であります。
それでは。
Special Thanks あるふれっどさん
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