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王女とトライアロー(5)



 戦艦ローズマリーの艦内は、ごった返していた。
 現場保存の意味もあって、乗客の正式な移乗が行われていた。
 エピクロス3から、艦隊の艦船に移動し、本来の目的地へ向かう事となり、さらに事
件直後とあって、乗客の心理状態も考えて護衛という形を取っていた。
 その喧騒の中、ビリーはノービスと連絡を取り、プロパリアーの接舷作業に負われて
いた。 
 エピクロス3内に残してきたスピーダーを受け取るために、面倒くさい手続きを踏ん
だ挙句の事で、ビリーはうんざりしていた。
 それも、あともう少しの辛抱だと我慢していたその矢先、ローズマリーの下士官に呼
び止められ、士官専用のフロアに案内される事になってしまった。
 案内された場所が、先刻、グレイススリックと面会した会議室だった事が、一瞬、ビ
リーの足を止める。
 担当の下士官が、ドアをノックして、室内に通される。果たして、そこにはグレイス
スリックが、カーク、ナビアを従えて、ビリーを出迎えた。
「どういうこと? これ?」
 本人にではなく、担当の下士官に説明を求めるビリーに対して、グレイススリックに
許可を得て、その下士官が答える。
「結論から申しますと、ロウエルさんに旅客業務の委託を、お願いしたいと言うことで
す」
「旅客業務ぅ?
 人、運べってか。そりゃ専門じゃない・・・」
 専門じゃないから、断るつもりのビリーだったが、その背後にいるグレイススリック
達が目に止まり、言葉が途切れる。
 言葉もなく、グレイススリック達を指さし、下士官に確認の意味の視線を向ける。
「はい。グレイススリック王女と補佐官の方々の、移動をお願いします」
 我が意を得たりと言った表情で、下士官が肯定した。
「どういう事? 説明はしてもらえるんでしょうね?」
「もちろんです。
 乗員乗客を、目的地まで輸送しなくてはならないのですが、そのための艦艇が不足気
味なのです。
 本来は戦闘艦ばかりなもので」
  そういって、ビリーに資料を見せた。そこには艦艇の数、その収容人員、乗客の目
的地別人員等が書き込まれており、輸送能力が、本当にぎりぎりだと言う事が、それで
判る。
「そこで、妃殿下なのですが、公式行事の予定もあり、直接、母国、ドルフィナ首長国
連邦に向かわれたいとの、ご要望がありましたが・・・」
「船がない?」
「はい。護衛など事情もあり、こちらが難色を示したところ、妃殿下より、あなたと交
渉されたいと申されまして。
 身分はもちろん、しっかりしておいでですし、捜査に関しても、ご協力いただけると
言う事もあり、それを否定する理由は、こちらにはございませんので」
『要は、体の良い、やっかいばらい、ってわけね』
 ビリーは内心で、治安維持軍の率直な意図を見抜いてしまった。
 人命は平等だが、グレイススリックの地位を考えると、どうしても比重と言うものが
生まれる。
 さらに、帰路の段階でトラブルでもあれば、どんな責任問題に発展するか、予想もつ
かない。
 それを当事者が、別の手段を取るというのなら、それを拒む手は無い。
 悪く言えば、事無かれ主義、官僚主義的な心理だが、判らないではない。
「で、その交渉を、なんで治安維持軍が?」
 目先を変えて、ビリーがそう問いかけた。
「まだ、現段階で、妃殿下はわが隊の管理下にあります。
 ロウエルさんがお引き受けいただけないとなると、また、別の手を考えなければなり
ませんので」
 ビリーは、その下士官とグレイススリックの間を、何度も視線を移動させた。
 グレイススリック、もしくは、その補佐官、カーク、ナビアの思惑は、判らないとい
うのが本音だ。
 だが、微笑みを浮かべながらも、不安を隠せないグレイススリックの表情を見るにつ
け、自分でもあきれるぐらい、ビリーはその提案に乗ろうと思ってしまうのだった。
 どの道、空荷で行くぐらいなら、多少なりとも見返りがある方が、確かに効率は良
い。神経を使う事は、覚悟しなければならないだろうが・・・。
 ただ、二つ返事というのも、なんだか面白くない。一旦、難色を示す。
「俺は、身分のある人間を運んだことはないし、そう言ったことにも馴れてない。
 失礼な事をするかも知れない。それは問題にならない?」
 その質問は、当事者ではない下士官が答えられる性格のものではなかった。
 下士官は、グレイススリックに意見を求める。
 その質問に答えようとしたのはカークだったが、グレイススリックがそれを制し、
自らビリーに語りかける。
「そういったご心配は不要です。
 逆に過剰なお気遣いをされると、こちらが困ってしまいます。
 是非、お願いいたします」
 穏やかな表情で、グレイススリックに正面から見据えられ、ビリーは観念せざるをえ
ない。
「ドルフィナは輸出入産業の盛んな国だ。
 出発の時も、仕事も見つけやすいだろう」
 ひねくれた物の言い方をしたビリーだったが、その意味はグレイススリック達には、
充分伝わった。
「引き受けてくださるのですね」
「乗り心地は保証しないがね」
「ありがとうございます」
 礼を述べ、喜色満面の笑みを浮かべるグレイススリックに、『こんな顔されちゃ、大
概、言う事聞いちゃうよなあ』といった思いが、ビリーの脳裏を走り抜ける。
 慌てて首を振り”雑念”を追い払おうとするビリーだった。


 グレイススリック、カーク、そしてナビアの3人を乗せたプロパリアーは、ドルフィ
ナ首長国連邦に向け、進路を取っていた。
 その操縦席で、ビリーはノービスと航路計算の合間に、グレイススリックを話題に会
話を交わしていた。
「美人かどうかは、俺には判らんが、なかなか魅力的な言動をする人物ではあるな」
 それがノービスのグレイススリック評だった。
 ビリーからのエピクロス3内での情報や、プロパリアーの機内での会話を記録した結
果から"計算"して得たものだった。
「王女って言えば、とんでもない我がままか、呆れるほどの世間知らず。というのが、
相場だと思っていたんだが、どうやら、相当、毛並みが違うみたいだなぁ」
 頭の後ろで手を組みながら、ビリーは答えた。
 グレイススリックは、プロパリアーに乗り込んでからというもの、休む時間を削って
いるかのように動き回っていた。
 亜空間通信でデータや通話を、頻繁にやり取りしたり、カーク、ナビアとで、意見を
交わしたりしていた。
 内容については、ビリーが聞き入って良いものではないし、根本的に船内での階層が
違っていた。
 だが、その「仕事」に対する姿勢は真摯、真剣なもので、少なくとも、世間知らずと
言う評が通じるものとは思えない。
 また、階層が違うので、全く顔を合わさないかと言えば、それも違う。
 食事やその他の面で、頻繁に顔を合わせることになる。そもそも、プロパリアーのス
タッフはビリー、一人なのだから。
 その時のグレイススリックの態度は、決して横柄なものではなかった。
 むしろ礼儀正しすぎて、ビリーの方が肩が凝るようなものだった。プロパリアーの設
備に対しても、クレームをつけるような事もない。
 プロパリアーが、一流の旅客機と言う事はない。むしろ、下から数えた方が早いレベ
ル。であるにも、かかわらず、である。
 わがまま、とは言えないだろう。
「ミュードライブにも、ケロッとしてやがる。なかなかどうして、たいした女の子だ」
 ビリーがそんな感想を口にした、ちょうどその時、操縦席の出入り口のアラームが、
来訪者の存在を伝えた。
「どなた?」
 インターホン越しに尋ねたビリーの問いに、その話題となっていた人物の声が返って
きた。
「お忙しいところ申し訳ございません。
 グレイススリックです。
 操縦席にお邪魔したいと思っているのですが、よろしいでしょうか」
 意外な来訪に、ビリーはノービスのモニターを見つめてしまった。正確にはカメラな
のだが、いわゆる、「目を合わせる」と言う行為である。
 多少ぎこちない動きで、ビリーは操縦室、後方の出入り口のドアに向かって、歩を進
める。
 狭い操縦室なので、2,3歩でドアに着いてしまう。
 ほんの数秒ためらい、その後、大きな深呼吸をした後、ドアを開ける。
 そこには、カジュアルな服装で立つ、グレイススリックがいた。
「お邪魔して、よろしいでしょうか?」
 上目使いで、遠慮がちにグレイススリックが聞いた。
「いや、それは構いませんが、妃殿下がお気に召すかどうか・・・」
 と断ろうとしたものの、プロパリアーの機内で、他に気の効いた設備など有りはしな
い。せいぜい、全視界映像室ぐらいだ。
 操縦席が珍しいという感覚は、充分、理解できるものだった。
「狭苦しいところですが、よろしければ、どうぞ」
 結局、グレイススリックの希望に沿うことになった。
 ドアを開けたまま、進行方向に向かって右側の副操縦席を、グレイススリックに勧め
る。
「ありがとうございます」
 そう言って、グレイススリックは席に着く。
 目の前の機械や計器類などではなく、直視スクリーンに広がる「星空」に心を奪われ
ているかのようなグレイススリックの様子に、『ここら辺は女の子だよな』とビリーは
思うのだった。
「大したものは有りませんが、コーヒーでもいかがですか?」
 操縦室後部で、カップを取り出しながらビリーは尋ねた。
「いえ、お構いなく。お邪魔したのはこちらです。業務を優先してください。
 お気遣い、ありがとうございます」
 穏やかな口調で、グレイススリックはそう答える。
 わずかに悩んだ後、カップを元に戻し、ビリーも席に着く。
「退屈ですか?」
 ビリーはそう聞いたが、それまでのグレイススリックの様子を考えれば、そうでない
事は判りそうなものである。
 言った後、自分の質問に、少しばかり呆れるビリーだったのだが、グレイススリック
は、笑顔で、丁寧に答える。
「いえ。所用で、少しばかりごたごたしていました。
 ようやく、一段落した所です」
「ならば、部屋で、お休みになられてはいかがです?」
「私、こうして、星を見てみたかったのです。
 そういう機会に、なかなか恵まれなくて・・・、ご迷惑でしたか?」
「いえ。多少緊張しますが、そう言うことなら光栄です。いつでも歓迎いたします。
 とは言っても、あと1回のミュードライブで到着の予定ですが」
「そう思って、お邪魔いたしました。
 今を逃しては、次の機会がいつになることかと思いまして」
 二人はそんな感じで、会話を交わしていった。いつもなら会話に加わってきそうな
ノービスは、黙ったままだった。
 若干の緊張を強いられているビリーとしては、ノービスが会話に加わってくれれば、
多少なりとも助かるのだが、気を利かしているのか、「緊張している」のか、一向にそ
の気配はない。
『こんな時に冷たい奴だ。なんとか言え』
 キーボードでそう打ち込んだが、モニターに返ってきた言葉は、「失礼な事を言いか
ねないので、自粛」と言う、判ったような判らないようなものだった。
 そんなビリーに遠慮がちな口調で、グレイススリックが聞いた。
「あの・・・」
「あ、はい。なんでしょうか? 妃殿下」
 ビリーとしては精一杯、礼儀を考えての対応だったが、グレイススリックは、それが
逆に気になるようだった。
「あの、そう言った言い方。出来ればやめていただけませんか?」
「は?」
「ビリーさんは私より年長者で、この機の機長です。
 普段通りの態度、言葉遣いでお願いします」
 ビリーは正面を向き、しばらく考え込んでいたが、やがて手を合わせ、グレイススリ
ックの提案を受け入れた。
「OK。判った。それがお望みであるのなら、こちらとしても是非もない。
 正直、俺も肩がこるんでね」
 ビリーのくだけた言い方に、クスッとグレイススリックが笑顔を浮かべた。
「で、・・・、あー、なんと呼べばいいのかな?」
「グレイス。グレイスと呼んでください」
「じゃあ、グレイス。
 星、好きなの?」
「ええ。
 ですが、なかなか見る機会が無いもので、お邪魔してしまいました」
「そんなもんかね」
 ビリーとしては、瞬きの無い星々は、見なれたものであったが、地上で暮らしている
事が多ければ、珍しいという事もあるのだろう。
 そこまでは納得できた。だが、気になった事がある。
「どうして今になって?
 あと一回のミュードライブで、ドルフィナに着いちゃうぜ?
 ・・・そんな間もなかった?」
「はい」
「聞いていい? 一体、何をしてたの? あんな忙しそうに?」
「先ほどまで取りかかっていたのは、経営分析です」
「・・・? それって高校の課題かなにか?」
「課題は最初に片付けました。物理、化学、宇宙暦史、数学、共通語B。
 さすがに疲れました」
 縁遠い単語が続き、ビリーは多少のめまいを覚える。
「高校へは行っているんだ」
「ついていくのがやっとですけどね」
 予測とは違う答えが返って来たため、ビリーの表情がいぶかしげなものになる。
 その表情から彼の心情を察したグレイススリックが、いたずらっぽい笑顔を浮かべて
答える。
「成績優秀だと思いましたか?」
「あ、いやあ」
 ビリーは答えに詰まった。だが気にする風でもなく、グレイススリックが続けた。
「なかなか、学校には行けなくて」
「国の公式行事とか、学校以外の勉強もしないといけないんだ?」
「ええ。どちらかと言うと、そちらの方が大変かもしれないですね」
 そう言ってグレイススリックは笑った。だが、心なしか、その笑顔も疲れを感じさせ
た。
「そこまでして学校へ行くのは、何故?
 個人的に教育を受けて、もうちょっと楽なスケジュールをこなせるんじゃないの?」
「理屈はそうなのですが、それでは友人も出来ないということです」
「友人?」
 これまた意外な単語が飛び出し、ビリーの思考はよろめいた。
「これは父から言われた事なのですが、知識は後からでも吸収できるが、一番多感な時
の人間関係は、かけがえのないものだと言うのです。
 だから、高校は通わせていただいています」
「友人、友達は出来たのかい?」
「はい」
 その返事とともに浮かべた笑顔は、先程のものとは違い、心の底からこみ上げるもの
を映していた。
「俺はまともに学校を出てないから、そういうの、確かに大切だと思うよ」
 柄にもないことを言ったと、ビリーは思った。
 照れくささを隠すために、ビリーは表情を意識的に引き締めた。
 グレイススリックは、笑顔のトーンを少し落として、うなずいた。
「で、他にも王族としての勉強があるわけだ」
「はい。経済学や心理学。交渉術や、礼儀作法、心療内科の勉強まであります」
「王族というのも、大変だね」
「ですが、四億と言う国民に対する責任があります。この程度のことが出来なくては、
王族としての資格はありません」
 一瞬、ビリーは声に詰まった。
 これが十七歳の少女の口から生まれた言葉だとは、にわかには信じられなかったの
だ。
 そんなビリーの沈黙を埋めるかのように、グレイススリックが言葉を続ける。
「私のほうからも、一つ質問があるのですが」
「なんです? 俺に答えられる事なら、なんなりと」
 ビリーはそう答えた。だが、言い出したはずのグレイススリックに、躊躇があった。
 躊躇している間、ビリーは口を開こうとはせず、グレイススリックの質問を待ってい
た。
「ビリーさんの立場から見ての、ご意見を伺いたいのです」
「どんな事で?」
「私たち、単独で行動してよかったのかと、今になって思うのです」
 やっとの事でグレイススリックはそう言ったが、それは要を得ない言い方だった。
 それでも、何が言いたいかは、ビリーには読めた。
「エピクロス3の事件のこと?」
「はい。
 犯人の狙いは私のはずなのに、迷惑をかけた乗客の方々に、何も言わずに立ち去って
しまったのは、果たして最善の策だったのか? と」
「と言うより、良心がとがめる?」
「・・・はい」
 グレイススリックの心苦しさが、ビリーにまで伝わってくるようだった。
「まあ。気持ちは判るけど、君は被害者だ。そこまで気にすることはないさ」
「そうでしょうか?」
「そりゃそうさ。君が護衛をゾロゾロ連れて歩いていても、襲ってくる奴は襲ってく
る。そこまで面倒は見れないだろ?」
「・・・そうですね」
「それに冷酷な事を言わせてもらえれば、事件は捜査中の段階で、詳しいことはこれか
らだ。
 そんな時に、下手なことを言えば、裁判にだってなりかねない。行動に移すのは、真
相がはっきりしてからになるな。
 グレイスの心境はともかく、ここは何も言わずに、立ち去ったのは正解だったと思う
よ」
 ビリーの言葉に、グレイススリックは安堵の表情を浮かべたが、同時に落胆の成分も
浮かんだ。
「どうしたの?」
 その色を感じ取ったビリーが聞いた。
「なんだか最近、言いたいことを言えなくなって来たと思いまして」
「偉い人って言うのは、そういうもんさ」
「それでも、子供の頃は、言いたい事が、少しは言えたような気がしたのですが、それ
は自分の立場を知らなかっただけなんですね・・・」
『今だって子供のくせに』
 ビリーはそんな事を考えたが、もちろん、口に出すような真似はしない。
 だが、そんな内心を読み取ったのか、グレイススリックが不意に言った。
「まだ子供だって、思ったでしょ?」
「まさか。そんな失礼なこと」
 そう言ったビリーの表情は、苦笑いを浮かべる事もなく、真剣そのものだった。だ
が、グレイススリックは、そんな事には動じなかった。
「ビリーさんは、感情を表情に出さない為の訓練をされてますね?」
 グレイススリックの表情は、愛らしい笑顔で、純真なものだったが、ビリーは背筋に
冷たいものすら感じてしまった。
「心外だなあ。何を根拠に」
 ビリーは苦笑いを浮かべて、それを否定したが、どうやら失敗したようだった。
「私、そう言う心理を看破する訓練も、受けているんですよ」
 笑顔は変わりのないものだったが、ビリーにはその表情に、漠然としたしたたかさの
ようなものを感じてしまった。
『可愛いだけのお姫様。では無い事だけは確かなようだ』
 それは感心したというより、恐れ入ったと言うべきの感想だった。


 その会話を、操縦席の外、出口のすぐ脇で立ち聞きしていた男がいた。カークだっ
た。
 面白くもなさそうな表情を浮かべていたカークだったが、通路の先にナビアの姿を認
め、なぜか顔を赤らめた。
 好奇心とからかうような成分を浮かべた表情で、ナビアが手話でカークに聞いた。
『何してるの?』
『あいつが不埒な事を考えたら、踏み込むため』
 カークは、そう伝えた後、拳を固め、大げさに右フックをしてみせた。
 ナビアが苦笑いを浮かべ、首を振っていると、不意に操縦室からビリーの声が、二人
に投げかけられた。
「音が聞こえてくるんだ。入ってくれば?」
 その声が自分に向けられていると、カークが気がつくのに多少の時間を要した。
 ナビアもカークのわきに立ち、恐る恐ると言った風情で操縦室をのぞき込む。
 そこには、呆れたような表情のビリーと、いたわるような笑顔を浮かべたグレイスス
リックが席から振り向いていた。
「今、補助シートを出す。二人とも入ってくれば?
 グレイス、いいだろ?」
「はい」
 ばつの悪そうな表情で、カークとナビアが操縦室に入ってくる。
 グレイススリックに視線を向け、ビリーが言った。
「グレイスは、大事にされているんだな」
「ありがたいと思っています」
 そうグレイススリックが答えると、補助シートを設置するため、ビリーは立ち上がっ
た。


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