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獅子の嫡子<14>




 ビリーとコンタクトを取るように言われたサリーだったが、正直な所、手だてが豊富
にあると言うわけではなかった。
 元々、ビリーとの連絡手段が、それほど多いわけでもないのだ。
 とりあえず、ビリーのデジタルレターのアドレスで、必要な事だけを伝えた。
 有り体に言えば「無駄な労力」だと思っていたのだが、それだけに返事が来たのには
驚いた。
 内容は、現在、連絡が出来ない事。必要があればおって連絡をする事。などが書かれ
ており、現在地などは明記されていなかった。
「ノービス? ノービスね、これは」
 サリーもビリーの宇宙船「プロパリアー」の船内コンピューター、ノービスの存在を
知っていた。その文面から、その返事はノービスが作成したものだと直感した。
 予想外の収穫なのだが、サリーの口から出た言葉は、上品という種類の物から対局の
位置にあった。
「ノービスのアホ! スカタン! この私が信用できないの!?
 ビリーに連絡したいのよ。ボケェ!!」
 横でその文面を読んでいたレオンが、精神的に後ずさったのも無理はない。
         
 
 
 一方、ノービスとしても、これが最大限の譲歩だった。
 通常通信を利用した上でのデジタルレターのやりとりでさえ、潜伏中の現在の状況か
らすれば危険すぎる。
 だが、ノービスなりに不安があった。なにしろビリーから、全く連絡がないのだ。
 似たような状況は、今までも何度かあった。だが、今回はそれが長すぎる。
 仕方がないので、レターを確認したところで、サリーの名前を見つけた。
 どうしようか散々”悩んだ”のだ。が、いざという時の助けを考え、彼女に連絡を付
ける事を決めたのだ。
「ひでえ言われようだ」 
 彼女の言葉がそのまま文章になったような、レターの内容に、ノービスは困ったよう
な声を出した。
『勝手に連絡を取って、ビリーになんて言われるかも知れんのに』
 不平の一つも漏らしたくなるノービスだった。
 だが、そんな二人のいさかいが、些細な事と片づけられてしまいそうなほど、状況は
一変していた。
 
 
 
 サリーの元に連絡が入った。
 ロングランド司法局が、ビリーの身柄を確保しており、こちらと連絡を取りたいと言
ってきたのだ。
 さらにその連絡相手に、サリーを指名してきたのだ。
「な、なんですってぇ!」
 劇的な状況の変化に、サリーが叫ぶのも、当然の成り行きだった。
 
 
 
 ロングランドの司法局の捜査班は、ビリーの要求をのんだ形になった。
 証拠がなければ話にならない。それは苦渋とも言える決断だった。
 だが、一つ問題が起こった。
「銀河警察局との接触は、どうしますか?」
 若い捜査官の言葉から、それは始まった。
「どちらの領土内でも、不都合があるだろう。
 ケルサバルは問題外だが、我が国でも、むこうが嫌がるだろう。
 内政干渉に敏感なところだからな」
「結局、公宙空間にお互いが出向かなければなりませんね」
「だが、実際どうするか? だな。
 こちらとしても目立つ動きをしたくない。
 宇宙船をチャーターするにしても、相手を選ばないと、どこから情報が漏れるか知れ
ない。
 事は慎重、かつ迅速を要する」
 その場にいた一同が、思案に暮れ、空気が硬直する中、ただ一人、ベンフレッドが事
も無げに言った。
「何を困ることがあります? 私たちには、すでに最適な移動手段を手にしているでは
ありませんか」
 もっとも、”最適な移動手段”であるビリーが、その話を聞いた時、面白くもないと
いった雰囲気をあたりにまき散らした。
「なんで、そんな事になるんだ?」
 その毒気を込めた言葉にも、ベンフレッドは全く動じない。
「断る事はできないと思いますが?」
「なんで?」
「あなたが断れば、私たちはこの国に足止めです。
 そうなれば、ロウェルさんもこの国で仕事日照りになるわけです。
 その間、当然、収入はありませんね」
「きたねーっ! あんた本当に司法関係の人?」
 ビリーの反撃も、ベンフレッドの前に不発に終わる。ベンフレッドは人の良さそうな
笑顔と共にこう付け加えた。
「もちろん、ただで。とは言いません。
 正当な報酬を支払います。
 ・・・決して悪い話ではないと思いますが?」
 ビリーにはその笑みが、悪党そのものに思えたのだが、それは口にするには彼として
も不本意だった。
 ともかく、答えは確かに最初から決まっていた。
 ビリーは渋々答える。
「条件さえあえば、なんでも運ぶってのがトライアローだからな。
 俺の持っている証拠品、あんた達が指定する場所まで運ぶ。
 それでいいだろ?」
 いかにも”しょうがない”といった口調を精一杯意識して、ビリーは答えた。
 満足そうにうなずくベンフレッドに対して、さらに続ける。
「衛星通信回線で、船をここへ寄こせるが、どうする?」
「それは願ってもない。村、北側に、比較的広い平原があります。
 そこに着陸できますか?」
 ビリーにとっては聞かれるまでもない事だったが、質問に対して首を縦に振る。
 そしてこう言った。
「条件はそれでいいとして、村はずれにスピーダーが置いてある。
 それを持ってきておきたいのだが? 許可願えるだろうか?」
「それは構いませんが、重要な参考人と言うことはご理解下さい」
「?」
 その意味が理解できなかったビリーだが、それも数分のことだった。
 二人の捜査官に左右を挟まれた形で、ビリーはスピーダーの駐機場所に向かった。
 「護衛」と言う事だったが、体よく監視されてると言った方がいい。要するに逃亡の
おそれがあると判断されているのだ。
”ま、しょうがないか”
 とは思うものの、面白くないのは確かではある。
 そういった状況で、ビリーと二人の捜査官は、徒歩で村はずれの森にやって来たのだ
が、そこでビリーの足が止まった。
「どうした?」
 いぶかしげに、傍らの捜査官がそう尋ねたが、彼も生え抜きの捜査官であり、通常と
は違う雰囲気を、すでに感じていた。
 ビリーにしても、足を止めたのは「勘」に近い。
 あえて具体的な例を上げるとすれば、景色に違和感を覚えた。と言うことだろうか?
 だとしても、論理的には全く説得力がない。だが、考えるより早く、ビリーは行動し
た。
「身を隠した方がいい」
 小声でそう言い、捜査官と木陰に身を隠そうとしたその時、ビリー達の動きを察し、
「敵」が動いた
 銃声が響いた。
 ビリーの判断により、間一髪で、彼らはその銃弾をよけられた。だが、完全に身を隠
せたわけではなく、連射音と共に、弾幕が彼らに襲いかかる。
 飛び跳ねるように3人は、その銃撃を交わし、木陰に身をかがめる。
「フォアンです。狙撃を受けています。場所は・・・」
 捜査官の一人が無線で状況を報告する。もう一人は、上着の内からエネルギーガンを
取り出し、応戦に備えている。
 皮肉にも、「護衛」という本来の形になっていた。だが、ビリーもこの状況を甘んじ
て見ていたわけではない。
 彼もジャケットから銃を取りだし、ジャケットのあちこちに手を当てる。それが、戦
闘の用意だと言うことは、傍目にも判った。
「君は隠れていろ」
 捜査官が自重を促すが、ビリーは意に介さない。
「自分の命ぐらい、自分で守りたいんだよ」
 そう言われると、返す言葉がない。 ビリーはさらに続ける。
「そんな事より、相手は移動している。
 周囲に警戒しつつ散開!」
 ビリーの口調は命令形になっていた。実際、こう言ったケースの経験はビリーの方が
何枚も上手であった。
 確かにビリーの言うとおり、銃撃が止んでいる。狙撃ではなく、連射を加えたという
事で、相手が移動しているという推理は的確だった。
 だが、それでも職務を考える捜査官が、難色を示す。
「バラバラになれ、とは言ってない。互いにカバーしあって、散開するんだよ。
 10メートル感覚。トラップに注意してついて来な」
 声を荒らげるビリーに、捜査官を腹をくくる。どの道、このまま固まっていたら、い
い標的である。
 低姿勢で茂みの中を疾走するビリーは、冷や汗を浮かべていた。
 戦闘経験はある。だが、だからと言って、こう言った場面では不安感を完全に払拭す
ることは難しい。行動に支障がないように押さえる事は可能だが、本能的な部分で、恐
怖を感じるのは避けられない。
 それは当然であるかも知れないが、同時に一種の高揚感を覚えるのも事実だった。
 その高揚感の元、ビリーは思った。
『まったく、しつこいぜ!
 一体、何者だよ。・・・って、大体予想はつくけどな』
 

 

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