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契りシリーズ。館林見晴編
 
 
 
「館林さん」
「・・・もう、見晴って言ってください」
「あ、ああ、ゴメン」
 これで何度目なんだろう?
 
 私が3年間通った私立きらめき高校には、一つの伝説が有りました。
 卒業式の日、校庭にある一本の巨木、その木の下で、女の子から告白して結ばれた
カップルは永遠に幸せになれるという伝説です。
 そんな伝説が伝わるきらめき高校で、私は恋をしました。
 1年の夏休み、遊園地で見かけた男の子。お友達と来ていたのでしょうか?4人で遊
んでいる人たち、その中の男の子に私は目を奪われたのです。
 一目ぼれというのがあるのでしょうか?その名前も知らない男の子に、私は一目ぼれ
をしてしまったみたいなんです。
 でも、内気な私が声などかけられるわけがありません。後を追いかけたくても、私も
お友達と来ていましたから、それも出来ませんでした。結局その日はそれだけでした。
 家に帰っても、その男の子のことが頭から離れませんでした。そうは言っても、どこ
の誰かも判らないのですから、それっきりになるはずでした。
 それがどうでしょう?二学期に入って、実はその男の子も、きらめき高校の生徒だと
知ったのです。
 私は神様に感謝しました。
 でも、でも、私は何も出来ませんでした。せめて顔を憶えてもらおうと、廊下でわざ
とぶつかったり、名前を憶えてもらいたくて、間違い電話を装って、留守電に名前を入
れたりするぐらいでした。
 そんな私も、ありったけの勇気を出して、卒業式の日に彼に告白したんです。
 彼は、それを快く受け入れてくれました。
 お互いのことはこれから知って行こうって。
 私達はそれから、高校の時出来なかった分を取り戻すかのように、デートを重ねまし
た。
 お互いの趣味や家族のこと(私は彼の事は知っていたけど、彼の口から直接聞きたか
ったの)を話し合ったり、これからの夢や希望を話したり。
 そして、きらめき中央公園、秋の夕暮れの中での初めてのキス・・・。
 今、思い出しても顔が火照ってきます。唇を離した彼が、その時、言ってくれたんで
す。
「好きだよ」って。
 嬉しかった。一目ぼれを信じて良かったって思ったのです。
 でも、どうしてなんでしょう?
 彼が私の事を「館林さん」って呼ぶたびに、不安になるんです。
 その理由は判っています。彼がなんの抵抗もなく、名前を呼べる人。「詩織」と気軽
に言える人、藤崎詩織さんの存在が私を不安にさせるのです。
 彼が藤崎さんを追うようにきらめき高校に入学した事。
 そして、藤崎さんに似合うようになりたいと努力した事などは、もちろん知っていま
した。
 そういう事は、すでに覚悟はしていました。でも、彼の心の中のどこかに、藤崎さん
がいるかもしれないと思うと、どうしようもなく不安になるのです。
 もう、結納も交わし、左手の薬指には、アクアマリンの指輪がはめられているのに、
それでも、不安になるんです。
 
「・・・晴、見晴、どうしたんだい?」
「え?」
 流れる景色を眺めながら、いつの間にか私は考えにふけってしまったようです。
「あ?ご、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていて・・・」
「いや、いいんだよ。退屈してるんじゃないかな?って思ってさ」
「そんな事ないですよ」
 私は慌てて、両手を振りながら答えます。
「だって、今日を楽しみにしてたんですもん。景色が綺麗だから、つい見とれちゃった
んです」
「峠道だからね。山あいが綺麗だよな」
「そうですね」

 今日、私達二人は、ドライブに来ています。
 彼が車を買い換えたということもあって、1泊2日の温泉旅行に来ているんです。
 といっても、二人だけじゃなくて、私の家族と、現地で落ち合う事になってるんで
す。
 二人とも実家を出て、別の街で暮らしていたから、久しぶりに一家団らんをしようと
言う事になったんです。
 そうしたら、私のお姉ちゃんが「彼も連れて来なさいって、お父さんが言ってるわ」
だなんて言うんだもん。
 なんでも、お酒を交わしたいんですって。
 まったく、お父さんったら・・・。
 ともかく、スポンサー(クスッ)の意向は無視できませんから、彼に恐る恐る聞いた
んです。嫌がるかな?って思っていたんだけど、すんなり「いいよ」って言うんですも
ん。私の方が驚いちゃった。
 「だって、館林のお父さん、お母さん、それにあのお姉さん達がそう言うのなら、何
を差し置いても行かなけりゃ。後が怖いからね」
 彼、ちょっぴりひきつった笑いを浮かべながら、そう言ったんです。
 どうも、お父さんより、お姉ちゃん達の方が苦手みたい。
 そんな訳で、今二人の乗った車は、山あいのスカイラインを駆け抜けているのです。
「なかなか、いいじゃないですか、このシルビア。フレームのびびりもないし、エンジ
ンも元気みたいですね」
「え?そうかな?見晴、車には詳しいから、この車気に入ってくれるかどうか、結構、
緊張したんだよ。
 中古だしね」
「ううん、気に入りましたよ。やっぱり、シルビアはS14よりS13ですよね」
 お姉ちゃんが4輪のレースなんてやってるから、私も知らない内に車には詳しくなっ
ていたんです。
「そうか、見晴が気に入ってくれたんなら、嬉しいよ。本当は新車を買いたかったんだ
けど、ほら、これから何かと要り用だろ?
 いろいろ捜したんだ、この車」
 え?要り用って、やっぱり、あれかな?・・・へへへ、照れくさいけど、なんだか嬉し
いですね。
 そうこうしている内に、宿になるホテルが見えてきました。
 連なる山の稜線の上に建つ、なかなか綺麗な建物です。
 
 
 
「え?き、来ていない?」
 彼がフロントで、言いました。私も同じことを考えていたのですが、びっくりしてし
まって、何も言えなかったのです。
「はい、確かに、館林様でお二人、御予約をいただいておりますが、他にはお伺いいた
しておりません」
 フロントの人の返事に、私達二人は声もなく互いの顔を見つめるだけでした。
「館林見晴様がおいでになったら、お渡しするようにと、ファクシミリをいただいてお
ります」
「え、私に?」
「はい」
 そう言って差し出されたホテルの白い封筒を、私は受け取りすぐに開けました。
 そこには綺麗にたたまれた1枚のFAX用紙が入っていました。
 
 
 
  「やっほー、見晴。無事に着いたみたいだね?
   まず、これは私達お姉ちゃんたちが、可愛い見晴のために、苦労して立てた
  作戦なんだよ。
   でも、ゴメンね。
   これだけは言っておかないと、見晴怒ると怖いから・・・(汗)。
   
   で、一家揃ってというのは、はっきり言うと嘘なのよ。
   だって、見晴ったら、高校の時と同じで、奥手なんだもん。見ていてじれっ
  たくなっちゃったのよ。
   あの、鈍い彼じゃ、あんたが積極的にならなきゃ、進展はないぞ。
   もう、婚約したんだからね。
   で、一芝居打ったわけなの。
   ま、ここからは、二人にお任せするわ。
   彼の腕の中で朝を迎えるも良し、清らかな夜をすごすも良し、それは、見晴
  が決めなさい、ね!
 
   それじゃあ、私達からのプレゼント、受け取ってね。(チュッ!)
 
              ばーーーい、おねえちゃんズ 
 
     P・S 彼には、「急患が出て両親とも行けなくなった」とでも言っ
        ておきなさい。  」        
 
 
 
 お、お、お、おおお、おねーーちゃーーん!! 余計な事をーーー!!
 なにが”ばーーーい、おねえちゃんズ”よ!!
 確かに、今回のことは、全部お姉ちゃんと連絡とったわよ。でも、普通こんな事す
る? 信じられない人達だわ!! 私のお姉ちゃんながら。
「見晴、何が書いてあるの?」
 彼が、そう言ってFAXを覗き込みました。
「え!?ええ、なんでも、お父さんたち、急患で出てこれないんですって」
 私はFAX用紙を畳みながら、思わずお姉ちゃん達の言う通りの事を、言ってしまい
ました。
 だって、こんなお姉ちゃん達だなんて知られたら恥ずかしいもん。
「そうか、大変だな。お医者さんって・・・」
 彼ったら、なんの疑いもなく信じてしまったみたい。
 ちょっぴり、罪悪感。
 
 
 
「な、なかなか、い、良い眺めだね」
「え、そ、そうね」
 彼は、部屋を別にとると言ったのだけれど。
 「申し訳ございません。本日、御予約の方で満室となっております」
と、フロントの人に丁寧に断られ、同じ部屋に泊まる事になったんです。
 ああ、会話がぎこちないわ。
「と、ともかく、お風呂に入ってきましょう」
 私は思い出したように言いました。
「そうだね。せっかく来たんだし、まずは入ってこようか」
「そうしましょ」
 そうして二人は、このホテルの名物、大展望風呂に入ることにしました。
 幸か不幸か混浴ではなかったので、私は一人で、学校のプールほどもある大浴槽に浸
かっていました。
 まわりには家族連れ等が大勢いて、にぎやかです。
「お姉ちゃんのバカ、こんな事、突然されたって、心の準備が出来てないじゃない」
 そんな中、両手を合わせて、水鉄砲のようにお湯を飛ばしながら、私は独り言です。
 こんな事なら、あんなシンプルのじゃなくて、もっと可愛い、そう、あのフリルが付
いたのにしてくればよかったな。
 ブラだって、・・・ああ、もう何考えてるの私ったら。
 私はぽかぽかと、両手で自分の頭を叩きました。
 どこかの小さな子が、不思議そうな顔で私を見ました。
 きゃー、恥ずかしい!!
 
 
 
 部屋に戻ると、料理が用意されていました。先に戻っていた彼がお願いしてたんです
ね、きっと。
「食べようか?」
「はい」
 お料理は、山の幸、海の幸がふんだんに使われた、それは美味しいものでした。
 二人とも、お酒が入っていい気分です。
「なんだか、こうして二人でゆっくりする事なんて、今までなかったね」
「そうね、いっつも、お姉ちゃん達に邪魔されたりしたもんね」
「おいおい、お姉さん達に向かって、いつも、なんて言い方はないだろう?」
「いつもじゃないにしても、結構邪魔されたでしょ?」
「ま、確かに」
 二人は笑いました。
 二人とも笑い上戸みたい。
 
 ころあいを見計らって、仲居さんが料理を下げに来てくれました。
 そして、二組のお布団も・・・。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 無言の後、二人は笑います。
「ははは」
「ふふふ」
 でも、なんだか乾いた笑いです。
「でも、館林の家の人達が来られなくて、ちょっぴり残念だな」
「え?」
 彼の言葉に私は首を傾げます。
「いやね、家族同士の付き合いなんて、詩織の家としかしなかったから、他の家の人達
ってどうなのかな?って思ってたんだ」
 私の胸が痛みました。また、藤崎さんの名前。見えない藤崎さんの影がこんなところ
まで・・・。
 きっと、私は暗い表情をしていたのでしょう。彼が聞いてきました。
「どうしたの? 見晴?」
「・・・いやです・・・」
「え?」
「まだ、藤崎さんの事が、・・・いいえ、何でもありません」
 私は顔を伏せました。彼の顔を見られなかったんです。
 そんな私の首に、彼が手をまわしました。
「!?」
 驚く私に、彼は優しく、こう言いました
「ごめん、ちょっと無神経だったね。でも、気にしないでいいよ。確かに詩織は忘れら
れないだろうけど、それはあくまで、ただの幼馴染みとしてだよ。
 俺が好きなのは、・・・見晴、君だけだよ」
 気が付いた時、私は彼の背中に両腕を回していました。
「私、私も・・・、あなただけです」
 彼の手が、優しく私の頭をなで、頬を経て、顎を持ち上げます。
「見晴」
「はい」
 甘いキス。それがきっかけのようになって、彼にしがみつくように抱きつきます。
 優しい彼の手が、私の身体を溶かしていきます。
 何度も、波が来ては去っていき、私には時間の感覚がなくなっていました。
「いいかい?見晴」
「はい」
 私は彼を受け入れます。でも、
「あ、いた!」
と、思わず叫んでしまいました。
 痛いんです。こんなに痛いなんて思いませんでした。
「大丈夫?やっぱり、やめておこうか」
「ううん、やだ。このまま来て。お願い」
「見晴・・・」
 だって、きっかけはどうあれ、せっかく二人っきりになれたんだもん。
 一緒になりたかった。彼と一つになりたかったんだもん。
「行くよ」
「はい」
 それは苦痛でした、でも、確かにそうだけど、それだけじゃなかった。
 それが何かは判らないけど、そう思えて仕方がなかったから、私は必死で彼にしがみ
つきました。
 
  

「痛かったよね?」
 私の髪を撫でながら、彼が言いました。
「痛くないと言えば嘘になるけど、いいの。嬉しかったから」
 そう言って、私は彼の胸に顔を埋めました。
 
 ちょっと、悔しいけど、お姉ちゃん達に感謝しなければならないのかな?
 
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・終わり
 
 
 後書き
 
 苦労したという点では、この館林編が、今シリーズ中、1、2を争うでしょう。
 それほど苦労しました。
 館林というのは、ゲーム本編での情報が極端に少ないキャラクターです。
 それ故、想像の余地があると言えば、そうなのですが、それにしても難しかったで
す。
 結局、背景に幅をもたせるために、詩織と”お姉ちゃんズ”にご登場願ったわけです
が、お姉ちゃんズ、ちょっとインパクトありましたね。
 本当に、こんな人がいたら面白い・・・いや、大変でしょうね(^_^;)。
  
 
 

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