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契りシリーズ。美樹原愛編
 
 
 
「くすん、くすん」
 ベッドの中、愛が俺の腕の中で泣いていた。
「もう、泣くなって」
「だって、だって、私のせいで」
「愛のせいなんかじゃないよ」
 
 
 
 まだ、梅雨も明けきらない頃、俺は19回目の誕生日を迎えた。
 この日のために、愛は、最近出来たばかりの、超高層ホテルの部屋を予約した。
 俺への誕生日プレゼントだと言う愛に、俺は言った。
「それが、どういう意味か判っているのか?」
と。
 愛は、まだ、俺に対しても簡単に話せる、と言うわけにはいかないが、それでも、彼
女なりの言い方で俺に言った。
「あの、わ、私だって、その意味判ります。判っているから・・・その・・・」
 俺はその時、愛にそれ以上言わせなかった。
 痛いと思うのではないかというほど、強く彼女を抱きしめた。それほど彼女が愛しか
ったのだ。
 きらめき高校を卒業して数カ月。愛は家事手伝いという身分で、俺は一流企業株式会
社(これが社名なのだ)というところに就職していた。
 そろそろなんとなく、と言う雰囲気にはなっていたが、愛からそう言ってくるとは思
わなかった。
 夜景のきれいなラウンジで食事をして、やはり美しい夜景の見える部屋で、二人は抱
き合った。
 ところが、あと一歩と言うところで、二人は一つにはなれなかった。
 愛が異様なほど痛がったのだ。
 そ、そりゃ、俺も初めてだから、そんなにテクニックがあるわけじゃない。そういう
事で上手くいかない事だってあるだろう。
 だけど、愛の痛がりようは尋常じゃなかった。
 それでもなお、我慢して、涙を流しながら、ひたすら耐える愛の表情を見れば、俺の
気も削がれるというものだ。
 結局、そんなこんなで愛が俺の胸で泣くことになったわけだ。
 
 
 
「最初、上手くいかないなんて事は珍しくないんだし、愛が気にすることないよ。
 大体、俺が下手だって言う事だってあるし」
「いいえ。・・・その、そんな事ありません」
「なんで?」
 聞き返した俺に、愛は頬を染め、もじもじと恥ずかしそうに言った。
「だって、・・・すぐ気持ち良かったもの。・・・それに、恥ずかしいけど、・・・私の・・・、そ
の、あそこが、・・・」
 愛の顔は真っ赤に染まっていた。
 俺はその言葉の後を継いだ。それも直接的な表現で。
「濡れた?」
「!・・・は、恥ずかしい!」
 愛のこう言う恥ずかしがり方は、高校時代と変わらない。
 確かに、愛のそれは、充分潤っていたし、本来ならばその役目を果たしたことだろ
う。
 だが、それ以上に、愛自身は未成熟だったのかもしれない。それで、愛は責任を感じ
ているのか?そう思うと愛しさがさらに募る。
「もういいよ。また、次の時に頑張ろう。ね?」
「ごめんなさい」
「また謝る。いいんだってば。愛は悪くないんだ。・・・今はゆっくりお休み」
「・・・うん」
 そう言った愛は、まるで泣き疲れたように、俺の腕の中で眠りについた。
 
 
 
  朝、俺が目覚めた時、俺の横に愛の姿はなかった。
(どこに?)
  そう思った俺は上半身だけ起き上がり、辺りを見回した。愛の姿は見えなかったが、
シャワーの音が聞こえて来たため、俺はそのまま横になった。
(シャワーを浴びているのか)
  シャワーの音を聞きながら、俺は愛の肢体を思い出していた。
  薄明かりの中に浮かんだ愛のラインは、決してグラマラスとは言えないが、俺にとっ
は充分すぎるほどの魅力を持っていた。
  みずみずしくきめやかな肌。さらさらとした栗色の髪。大きすぎない胸のふくらみ。
  抱きしめたら折れてしまいそうな腰。すらりとした、それでいて適度に脂肪を含んだ
腰から太股、くるぶし・・・。
(あ!)
  そんな事を考えていたら、俺の下半身が別の生き物になっちまった。それは何も、朝
の生理現象だけではない。男として当然の、性的欲求から来る物だ。
  だが、愛にそれを知られるのは忍びない。愛がシャワーに行っていて良かった。
  俺は自分を抑えようと努力しながら、愛がまだ出て来ない事を願った。
  幸い、愛はなかなかシャワーから出て来なかった。幸い?いや待て、それにしたって
長すぎる。
  シャワーの音が消えてから随分経っているはずだが、愛はなかなか出て来なかった。
(どうしたんだ?)
  心配になった俺は、そっとシャワールームへと向かった。
  そして、俺は二重に驚いた。
  一つ目は、それほど大した事ではない(二つ目の衝撃に比べれば、だが)、シャワー
ルームのドアが、少し開いていたのだった。
  なんだか、身体の芯に電流が走ったような気がした。
  どうしようか、散々悩んだ。もちろん、性的な欲求があった事は否めない。
  もし、愛にそれを知られたら?と思うと、引き返しそうになった。
  が、万が一、何かあったら?と思い、俺は意を決して(決してスケベ心じゃ無いぞ!
ああ!違うんだ!そんな目で見るなあ!!)、シャワールームに近づいた。
  本当の衝撃は、その時やって来た。
「はあ、はあ、はあ」
  シャワールームの中から、愛の息遣いが聞こえて来たのだ。この時俺がした想像を、
男だったら誰が非難できるか?しかも、それは想像通りだったのだから。
  愛がシャワールームで、全裸のまま、膝を立てた四つんばいになっていた。いや、そ
れは正確ではない。
  左手で上半身を支え、空いた右手は、愛の一番敏感な部分、股間に伸びていた。
  その指が、愛自身をまさぐるたびに、愛の唇から、甘い吐息が漏れていたのだ。
「はあ、はあ、んんっ!・・・はああん!」
  あまりの意外な光景に、俺はその場に茫然と立ち尽くした。
  だが、一瞬後、俺は正気を取り戻し、踵を返してベッドに戻ろうとした。
(何も見なかった事にしよう。そ、そりゃ、愛だって、オナニーぐらいするさ。
  だけど、それは秘密にしておくべき事なんだから・・・。そ、そうだよ)
  だが、俺は動揺していたのだろう。後ずさりした身体は、部屋の入口にあった電気ス
タンドと派手な接触をしてしまい、盛大な音を出してしまった。
(まずい!)
  そう思った時には、すでに遅かった。
  シャワールームのドアが開け放たれ、そこにはバスタオルを巻いた愛がいた。
  白い頬が真っ赤に染まっていた。それは上気したためか?恥ずかしさからか?おそら
  く、その双方だろう。
「あ、あの、・・・見たんですか?」
  両手でバスタオルの上から胸を押さえて、愛が言った。
「あ、あああ、あのね。そ、その・・・」
(えーーいっ落ち着け!こういう時こそ落ち着け!)
  俺は、首を激しく横に振って、自分を落ち着かせた。
  そして、愛に向き直る。
「・・・いつまでも、出て来ないから、心配になって・・・」
  その瞬間、愛は俺に背を向け、叫んだ。そう、叫んだのだ。
「わ、私の事嫌いにならないで下さい!いやらしいって思わないで!だって、わ、私」
  俺はそっと愛に近づき、その彼女の背中から、静かに腕を前にまわす。
「!?」
  愛は身体をびくつかせる。そんな愛に、俺は優しく言った。
「馬鹿だなあ、こんな事ぐらいで、愛の事が嫌いになる訳ないだろ?」
「で、でも、・・・いやらしい娘だって、・・・思うでしょ?」
「思わないよ。その・・・したって、普通だよ」
「違うの!」
  愛はうつむいたまま言った。
「愛?」
「その、身体が疼いて仕方なかったの・・・。あなたに優しくされて、あの、・・・あそこが
熱くって。・・・それに、なんで、上手くいかなかったのかな?って、シャワーを浴びな
がら考えていたら、気が付いたら、・・・指で、・・・・・・」
  愛は朝の光の中、顔を赤く染めたまま、うつむき黙り込んでしまった。
「気持ち良かった?」
「・・・え?」
「気持ち良かったの?」
「・・・そんな事、聞かないで」
「どうだったの?」
  愛はコクリと肯いた。
「・・・は、恥ずかしい」
(可愛い)
  俺の手の中にいる愛に、俺は惚れ直した。その瞬間、俺の理性のタガが緩んだ。
  この状況で、誰が俺を責める事が出来るだろうか?そりゃ、いるだろうけど、今は、
そんな事はどうでもいい!  
「あん!」
  俺の右手が、愛に触れる。
  愛のそれには、まだ、残り火がついていた。滑らかな液体が俺の指にまとわりつく。
「あ、やだ!」
  愛は右手の人差し指を、軽く噛みながらそう言った。その言葉と身体の反応は、全く
正反対だった。
  俺は、そのまま、中指を愛の中へそっと入れてみた。暖かく、滑らかな液の力を借り
て、俺の指はするりと愛の中へと入って行った。
「はああん!」
  愛がのけぞった。バンザイをするように両手を上げた愛が、そのままその手を、俺の
首にまわし、顔だけ振り向き、俺の唇にその愛らしい唇を重ねた。
  ちょっと、普段の愛からは想像しにくい積極さだった。
  白いバスタオルが、はらりと床に落ちる。
「む、んん、むん」
  舌が激しく絡み合い、愛の泉は更に熱をおびていった。
「・・・お願い、・・・部屋を暗くして」
  唇を離し、少し乱れた息の中、愛は言った。
「ああ」
  俺はカーテンを閉めた。さすがに一流のホテル、昼間に休む人間の事も考え、カーテ
ンは充分厚く、部屋は夜の闇に占められた。
  俺はベッドに腰掛け、シャワールームの入口あたりのところで、背中を向けて立って
いた愛に言った。
「愛、来て」
「・・・はい」
  愛は、すうっとベッドに入る。
「・・・あ、あの」
「なんだい?」
「私、こんなの初めてなんです。・・・気持ちいいんだけど、・・・何だか怖くって」
「怖がらなくてもいいんだよ。それは、愛が女の悦びに、目覚めて来たと言う事なんだ
から」
  俺の言葉に、愛は両手で顔を塞ぎながらも、確かにこう言った。
「は、はい。・・・お願いします。・・・その、・・・続けて下さい」
  無論、俺に断る理由はなかった。
  
  
(すごい、どんどん溢れてくる)
  俺はそう思わずにはいられなかった。昨夜も、愛自身は濡れていた。だが、今とは比
べ物にならない。
  今の愛は、まるでその奥に、熱いマグマが潜んでいるとさえ思える。
  昨夜はあれほど頑なだったに、今は、俺の2本の指を軽々と受け入れているのだ。
「ああん、だ、だめえ!」
  愛の栗色の髪が、白いシーツの上に、乱れ広がる。
  激しく首を振る。もう、自分で自分が抑えられないのかも知れない。
(いけるか?)
  俺は左手で愛を愛撫しながら、右手で自分に付けようとした。
  唇にキスをして、愛にそれを気付かせないようにした。何故だか知らないが、愛に、
それを付けている場面を意識されたくなかった。
  あれほど練習したのに(練習というのが、自分でも少し、情けないが)、なかなか、
うまく付けられない。
  それでもなんとか、苦労の末に成功した俺は、俺自身を愛自身に手で誘導した。
(ここか?ここだよな)
  多少の不安を抱えながらも、俺は腰を突き出した。
  スルリと言う感覚と共に、俺のまわりに熱い物がまとわりつく。
「くあーーん!い、痛い!・・・ううん、大丈夫。昨日ほどじゃ、・・・ないもん」
  息も絶え絶えに、愛が言った。
「でも、・・・動かないで。・・・それはまだ、・・・痛いから・・・」
  愛はそう言うが、俺の方もそれどころじゃなかった。
  下半身が自分の物じゃないみたいなのだ。自分の意志に関わらず、熱い物があっとい
う間にほとばしり、愛の中に、それを放出してしまった。
  確かにそう思ったのだ。あんな薄い膜が、このエネルギーを止められるとは、とても
思えなかったのだ。実際には、そんなやわな物ではないのだが。
「ご、ごめん。・・・出ちゃった」
  そんな俺を、愛が抱きよせる。
「ううん、良いの。・・・そんな事良いのよ・・・」
  俺は、その言葉に救われた思いだった。
  が、そう言った愛が、再び肩を震わし、涙をこぼしはじめた。
「ご、ごめんなさい。何だか嬉しくって・・・」
  そう言って、愛は俺の胸に顔を埋めた。
  愛は本当によく泣く。
  
  
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・おわり
  
  
後書き
 
美樹原の場合、そう言う雰囲気になってからが、大変なんじゃないかな?
と思ったのが、この話の骨格です。
なんて言っても、あの身体からは、まだまだ成長過程というイメージが(殴!)
本来、もっと、日にちをかけて結ばれるという話しだったのですが、何故かシャワーで
・・・。なぜ?
どうやら、中途半端に火を付けられると、消火するのが大変だという、女性がいるらし
いんです。
愛ちゃんも、その一人と言う事で、結果的に、二人はめでたく結ばれたのですね。
ああ、いつの間にか愛ちゃんだって。崩壊してるなあ(木亥 火暴!)
 
でも、この話って、女の子には受けがあまりよろしくないです。
「同じ部屋じゃ、しないって」
と言うのが、その理由だそうです。
その辺りはどうなんでしょうか?
 
 で、この正対を成すのが、藤崎詩織編と言う訳です。
雰囲気、全然違いますが(笑)。
 
 
 

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