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契りシリーズ。古式ゆかり編
 
 
 
 私はいつから、こんなふしだらな女になってしまったのでしょうか?
 あの方の事を想うだけで、私の心はちぢに乱れます。
 
 母校である、きらめき高校の卒業式の日に、あの方に告白した時から、このような
想いはせずに済むと、思っておりました。
 お母さまから教えられた伝説。卒業式の日に、校庭の木の下で女性から告白して結ば
れた二人は永遠に幸せになれるという、きらめき高校に伝わっている伝説。
 その伝説に力づけられ、私はあの方に暖めてきた想いを打ち明けたのです。
 あの方は、それを受け入れてくださいました。大変嬉しく思いました。
 ですが、私の想いが遂げられたというのに、私の切なさは、積もるばかりだったので
す。
 お会いすればするほど、お話を交わせば交わすほど、あの方を知れば知るほど、私の
胸は高なり、あの方を想う気持ちは深まっていったのです。
 あの方に会えない時、側にいない時、それが切なさに変わるのです。
 今夜もそうです。
 明日はあの方と私の、祝言を挙げる日だというのに。明日になれば、二人は晴れて夫
婦になれるというのに、私はあの方を想い、火照る身体を自ら慰めるのです。
「はあ・・・ん」
 床に横になっていた私の身体から、波が退いていきます。
 また、ショーツを汚してしまいました。
 こんな事をしていると分かってしまったら、あの方はなんと思うでしょう。
 ふしだらな女と軽べつされてしまうでしょうか?
 私は、机の上に置かれた写真立ての中にある、あの方のお姿を見つめました。私には
もったいないほど、素敵なお方。
 もし、あの方に嫌われてしまったら・・・。
 いやです。それは嫌です。考えるだけでも恐ろしい事です。
 
 ゆかりはあなたの良い妻となります。
 それで、どうかお許し下さいませ。
 
 それでは、明日お会いいたしましょう。
 明日からは二人は夫婦となります。どうか、よろしくお願いいたします。
 
 
 
 翌日となりました。お式の当日です。
 
「ゆかりさん、とっても綺麗ですよ」
「はい、ありがとうございます」
 高校時代のお友達、如月未緒さんが祝福して下さいます。
「やっぱり、ゆかりんは和式が似合うわね」
 同じく、お友達の朝日奈夕子さんです。
 髪を文金高島田とし、白無垢で身を包んだ私は、控え室で皆様をお迎えしておりまし
た。
 そして、藤崎詩織さんがいらっしゃいました。
 藤崎さんは、あの方の幼馴染みで、高校の時には、少なからず、彼女にご迷惑をおか
けしたことがありました。
「ご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「・・・ゆかりさん」
「はい?」
「彼と、お幸せにね」
 藤崎さんはそう言って、右目を軽くつぶりました。
「は、はい・・・」
 何故でしょうか?目が霞んでまいりました。
「ほら、ゆかり。白粉が流れてしまいますよ」
 お母さまが、ハンカチを私の頬にあてがいます。
「お母さま、そして、皆様。
 ゆかりは幸せになります。それが、皆様の為にできる恩返しだと思いますから」
 皆さんの微笑みは、私には見えませんでした。
 どうやら今一度、お化粧をしなければならないようです。
 
 
 
「不束者ではございますが、どうかよろしゅう、お願い申し上げます」
 お式は順調に進み、無事終了いたしました。その会場となったホテルの一室で、私は
あの方に改めて挨拶をいたしました。
「こちらこそ、よろしく」
 あの方が正座をして頭を下げました。
 私が想像していたのは、和室での挨拶だったので、このような洋室、しかもカーペッ
トと言うのは、どうも勝手が違います。
「はははは」
 頭を上げたあの方が、笑い始めました。
「堅苦しい挨拶はやめようよ、ゆかり。これからは二人、夫婦なんだから気楽に行こう
よ、ね?」
「はい」
「それじゃあ、明日も朝早いんだから、早めに休もう」
「・・・はい、そうですね」
「じゃあ、俺、風呂に入ってくるよ」
「あ、あの・・・」
「ん?何?」
「いえ、なんでもありませんよ」
「ふうーーん。じゃあ、お先にね」
「はい」
 一緒に入りたいと思ってしまうなんて、なんてはしたないのでしょう。
 私はカーテンを開けて、夜景を眺めました。
「まあ、綺麗ですねえ」
 32階というこの部屋から見る夜の街は、とても綺麗で、私はつい、見とれてしまい
ました。
「お待たせ、ゆかり」
「あら?早かったですね?」
 彼は少し驚いたような顔になりました。
「ゆっくり入って来たよ。また、何かを見入っていたんだね」
「はい。夜景が綺麗でしたので、つい」
 あの方は優しく微笑みました。
「じゃあ、行っておいで」
「はい」
 
 
 
 私はどうも洋式のお風呂というのは苦手ですので、シャワーで済ませます。
 またです。身体が火照っています。でも、昨日までと違うのは、それが切なさから来
る物ではないということです。
 粗相のないように、きれいに身体を洗います。
 なんだかどきどきしますね。
 シャワールームのドアを少しだけ開け、私は言いました。
「あのぉ」
「なんだい?」
「部屋を、暗くして、下さいませんか?」
「・・・ゆかり。ああ、待っていて」
 一瞬、あの方はためらったようですが、すぐに部屋が暗くなりました。
 私はバスタオルを、身体に巻いただけの姿で、あの方の前に立ちます。
「ゆかり・・・。いいんだね?」
「クスクス」
 私は思わず笑ってしまいました。
「な、何がおかしいの?」
「私達は、もう、夫婦なのです。いいも悪いもありませんよ」
「そうだけど、ゆかりって、そういう事に気を使う方のような気がして・・・。
 疲れたりしてるようなら、今日は休もうと思ってたから・・・」
「ご心配には及びません。私のほうこそ、今日という日を待っておりましたから」
「え?」
 これは失言だったようです。
「あ、あの。なんと言うか、これも、夫婦の務めです。覚悟をして来たという事です」
 私の言葉は、かえって私の動揺をあの方に伝えてしまったようです。
 あの方は私を抱き締めると言いました。
「嫌だ」
「え?」
 何が嫌なのでしょう?
「義務なんかじゃ嫌だ。俺は義務なんかで、ゆかりを抱きたくない」
 この言葉で、私の心が満たされていくようでした。
「申し訳ありません。言葉が正しくありませんでした。
 ・・・抱いてください。私をあなたの妻にしてください」
「ゆかり」
 私を包む、あの方の腕に力が入ります。
 
 
 
 強く優しく、あの方の手が、私を愛してくれます。
 抑えようとしても、吐息が漏れてしまいます。
「はああぁん」
 甘美な感覚が私を包み、額を流れる汗が、ベッドを濡らしていきます。
 腰から下が、私の物ではないようです。暖かく、ぬるぬるした感覚が、股間に広がっ
ていきます。感じているのです。まだ、殿方を知らないのに、私の身体は感じているの
です。
 その股間に、あの方の手が触れようとしました。
「だ、駄目です!」
「・・・ゆかり?どうしたんだ?」
 このような時、なんと言えばいいのでしょうか?
 何を言っても、いやらしく思われそうで、言葉が見つかりません。
 私が迷っている内に、手は私の股間に触れました。
「すごいよ、ゆかりのここ」
 恥ずかしさに私は顔を両手で覆います。
「駄目ですか?」
「え?」
「こういう女はお嫌いですか?」
 クスッ。
 そんな笑い声が聞こえてきました。
「そんな事あるわけないだろ。
 ・・・感じているんだよね」
 恥ずかしさで、顔が熱を帯びるのが分かります。
「どうなの?」
 手で覆ったまま、私はうなずきました。
「よかった」
 え?よかった?
「こんな私でも、よろしいのですか?」
「もちろんさ、感じてくれる方が嬉しいよ。もっと感じていいんだよ」
「はい、分かりました」
 昨日まで、私が悩んでいたことが嘘のようです。私は自分でも信じられないほど、あ
の方の腕の中で、悶え、乱れました。
 あの方が私の中に、分け入ってきます。
「痛い?大丈夫?」
「はい、・・・多少の痛みはありますが、・・・大丈夫ですよ。そのまま、・・・お続け下さい」
「ゆかり」
「はい」
「好きだよ」
「私も大好きです。・・・はああん!」
 あの方の腰使いが激しくなります。限界が近いようです。かくいう私も、もはや限界
です。
「ゆかり!」
「はい・・・あ、あなた」
 熱い濁流が、私の中を満たしていき、二人はほぼ同時に絶頂を迎えました。
 
 
 
 翌日、ハワイに向かう飛行機の中での事です。
 主人がそっと、私の耳元で言ったのです
「ハネムーンベビーなら、お義父さんも、文句言えないよな」
「・・・!?
 はい、もちろんですよ。あちらでも、一杯がんばりましょう」
「・・・ゆかり?」
「・・・まあ、これは少々、はしたなかったでしょうか?」
「いや、そういうゆかりも好きだよ」
「そうですか?そう言っていただけると嬉しいですねえ」
 
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おわり
 
 
 
後書き
 
 考えようによっては、この古式ゆかり編が、一番過激というか、衝撃的なのかも知れ
ませんね。
 いきなり、自慰ですからね(^_^;)
 かなり表現で悩みました。
 例を上げれば、ショーツにするか、下着にするか、下穿きにするか、です。
 呆れた話ですが、当初は下穿きでした。
「でも、いくらなんでもなあ」
ということで、さんざん悩みました。
 ストーリー自体は簡単にできたのですが、本当に悩んでしまったのは、そう言った
細かな表現でした。
 どうしたら、一番いやらしくないかという事が、最重要課題だったわけです。
 
あ、細かなことですが、最後に、あの方から、主人に呼び方が変わっています。
(蛇足ですね)
 
いかがでしたでしょうか?
  
 
 

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