契りシリーズ。鏡 魅羅編 −−北風が吹く夜、一台の車が、いかにもベッドタウンと言った街のマンションの前に 止まる。 運転席の男、振り向いて。 男 「魅羅ちゃん、着いたよ」 −−後部座席の魅羅、小さくあくびをして肯きながら。 魅羅「は、はい」 男 「疲れてるようだね。明日は久々のオフ、ゆっくり休んでね」 魅羅「はい」 男 「明後日から、また頑張ってもらうからね。何って言ったって、魅羅ちゃんは、 うちの事務所の期待の星なんだから」 −−魅羅、再び肯き、車から降りる。 −−歩く魅羅、鍵をバッグから取り出し、マンションのセキュリティードアを開けようと する。 −−その時、人の気配に振り向く。 −−そこに立つ彼。 彼「やあ、久し振り」 −−魅羅、驚き、声も出せない。 −−場面、魅羅の1DKの自室。テーブルにコーヒーカップを置く魅羅。 魅羅「インスタントしかないけど」 彼「俺、インスタント以外は、店でしか飲んだ事ないぜ」 −−魅羅、笑いながら、その向いに座る。 魅羅「どう?今年は?」 彼「そうだねぇ。ともかく、トップチームに残る事から考えないと」 魅羅「あなたなら大丈夫よ。なんて言っても去年の新人王なんですもん」 彼「いや、うちの監督は厳しいからなあ」 魅羅「そうなの?」 彼「そうだよ。プロは厳しいんだぜ」 −−二人、くすくす笑う。 彼「ところで、魅羅だって、TV頑張ってるみたいじゃないか。 変なものだよな、お互いの姿をTVで見る事が多いなんて」 魅羅「そうね、きらめき高校を卒業してから、もうすぐ2年。その間、数える程しか会 っていないものね」 彼「磐田と東京、離ればなれか・・・」 −−彼、コーヒーカップに口をつける。 −−魅羅、その姿を見ながら。 魅羅「それにしても驚いたわ。なんの連絡もよこさずに来るんだから。 もし、私が帰ってこなかったらどうするつもりだったの? 寒空の下で体調を崩したら、それこそプロ失格よ」 彼「う、うん。まあ、いいじゃないか」 魅羅「良くはないわよ。あの木の下で、それぞれ、別の道で頑張っていこう、って約束 したじゃない。 忘れたなんて言わせないわよ」 彼「忘れるわけないだろ」 魅羅「だったら、今後は、ちゃんと連絡してね」 −−彼、手を頭の後ろに組んで言う。 彼「今をときめくグラビアクイーンに、それほど空いた時間があるとは思えなくて、 もし、帰ってこないようなら、このまま帰ろうと思っていたんだ。 そうしたら、それほど待たずに帰ってきたから、運が良かったよ」 魅羅「それほどって、どのくらい?」 彼「2時間くらい」 魅羅「それって、ずいぶん待ったって言うのよ」 彼「あれ?高校の時には、そのくらいは、しょっちゅう魅羅の待たされたけどな」 −−彼、軽くウインクをする。 −−魅羅。毒気を抜かれたような顔になり、くすくすと笑う。 魅羅「それを言われると、弱いわ。せっかく来てくれたんだもの。もうこのぐらいにし ておきましょう それで、今日はどうしたの?」 −−彼、コーヒーカップを手の中でまわしながら。 彼「うん。もうすぐ、キャンプにはいるんだけど、そうしたらもう、なかなか会えな くなるだろ? 明日が最後の休みだと思ったら、気が付いた時には新幹線に乗ってた」 −−しばしの沈黙。 −−彼、真剣な表情になる。 彼「魅羅に会いに来た。魅羅の顔が見たかった。声が聞きたかった。 それだけじゃ、理由にならないかな?」 −−魅羅、両手で口元を押さえる。 魅羅「・・・もう、相変わらず、考えなしなんだから」 彼「相変わらずとはひどいな。・・・理由にならないか?」 −−魅羅、ぶんぶんと首を振る。 魅羅「充分よ。それで充分。・・・私も会いに来てくれて嬉しかった」 −−魅羅、立ち上がり、彼の後ろにまわる。両手を彼の背中から首の前にまわす。 −−彼、その手を取り、 彼「もう一つ、理由があるんだ」 魅羅「なあに?」 −−彼、ためらいがちに切り出す。 彼「最初は今年のシーズン、無事に乗り切ったら、って思っていたんだけれど」 −−魅羅、首を傾げる。 彼「魅羅の顔を見たら、言わなくちゃって・・・」 魅羅「な、何を?」 彼「今年、納得のいく成績が残せたら・・・」 −−魅羅、声を振るわせて、 魅羅「の、残せたら?」 彼「け、結婚しよう」 −−二人、沈黙する。 −−窓の外、北風にあおられ、木の葉が舞う。 彼「み、魅羅?」 −−魅羅、顔を伏せて。 魅羅「あなたって、本当に考えなしなんだから。 普通、そう言うのって、決心とかしてくるものでしょ? 本当に、考えなしなんだから・・・」 彼「そ、そうだよな。もうちょっと、考えてからじゃなきゃまずかったかな? 失敗しちゃったかな?」 魅羅「それが、考えてないって言うの。 私が、あなたからの、あなたからの・・・」 −−魅羅、涙声になる。 彼「魅羅?」 魅羅「私が、あなたからの、プロポーズを、プロポーズを断ると思っているの?」 −−彼、表情が変わる。 彼「そ、それじゃ」 魅羅「うん、ちゃんと事務所の人にはお話しして、許してもらうわ」 −−彼、立ち上がり、魅羅を抱き上げる。 彼「やったあ!」 魅羅「きゃ! まだ、許してもらったわけじゃないのよ。 私だってお仕事続けたいし、順調にいくとは限らないんだから」 彼「判ってるよ。判っているけど、今、嬉しいんだ」 魅羅「もう、しょうがない人」 −−魅羅、彼の背中にまわした腕に力を込める。 −−彼、そのまま魅羅を床に降ろしす。 −−見つめ会う二人、やがて目を閉じる魅羅。 −−静かに口づけを交わす二人。 −−口づけが終わり、魅羅、甘えた声で、 魅羅「明日、お休みでしょ?」 彼「ああ」 魅羅「泊まる所は?」 彼「・・・予約はしてある」 魅羅「キャンセルして」 彼「魅羅?」 魅羅「私のためにキャンセルして。今日は帰らないで。お願い」 −−彼の胸に顔を埋める魅羅。その髪を撫でながら、 彼「ああ、判ったよ」 −−場面、暗闇のベッドルーム。床に無造作に脱ぎ捨てられた二人の衣類。 −−窓から差し込む薄明かりの中に浮かぶ、立った、二人のシルエット。 −−彼はブリーフのみ、魅羅は、ブラとショーツ。 −−彼が、魅羅のブラを取る。 −−床に落ちる、ブラ。 彼「きれいだよ、魅羅」 −−魅羅、顔を背けながら、 魅羅「あ、当たり前でしょ。私はそれで、お金を稼いでいるのよ」 彼「だけど、今は、俺だけの魅羅だ」 −−魅羅、黙って彼を抱き締める。 魅羅「・・・そうよ、今はあなただけの、鏡魅羅よ」 −−彼、魅羅をベッドまで抱き抱える。 −−そのままベッドの倒れ込む。 −−魅羅、彼の顔を両手で包み込むように持つ。 彼「幸せにするよ」 −−魅羅、首を振り、 魅羅「ううん、私は今でも充分幸せよ」 −−彼、魅羅に顔を近づけ、唇を重ねる。 −−ベッドのすぐ脇の床。彼の手によって、魅羅の白いショーツが床に落ちる。 −−頬を染める魅羅。 −−痛みに顔をしかめる魅羅。 −−悦楽の表情を浮かべる魅羅。 −−彼の腕まくらの中、彼の胸に頭を載せる魅羅。 −−朝、ベッドの中で目を覚ます魅羅。彼もほとんど同時に目を開ける。 魅羅「おはよう」 彼「おはよう」 魅羅「・・・弟たちに、お兄さんが出来るって言わないといけないわね」 彼「俺、兄弟がいないから、嬉しいよ」 魅羅「サッカー、教えてあげてね」 彼「そのぐらいお安いご用さ」 魅羅「あのね」 彼「ん?」 −−魅羅、口ごもる。 彼「どうしたんだよ?」 −−魅羅、意を決したように。 魅羅「・・・大好き」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おわり 後書き この鏡編、少々(少々じゃないか?)変わった方法を用いました。 読んでいただければ判りますよね。 脚本風にした訳は・・・特にありません(爆)。 ただ、魅羅の話が一番単調だったんですね。 そのまま形にしたら、なんだかすごく、抑揚のない話になってしまう。 それが、狙いだったんですけど、それにしても単調すぎる。 で、ちょっと変わった手法をとってみたわけです。 まあ、正直言って実験的な意味あいもありました。13編のなかで、こう言うのもあっ たって、いいじゃないか?と言うわけです。 いかがだったでしょうか? ちなみに、彼の所属しているのはジュビロらしい(大爆笑)。