清川望 「はあ。・・・やっぱり、今日あたり、するんだろうな」 洋式トイレの便座に腰掛けながら、清川望はため息混じりに、小さく声を漏らした。 いつまでもここにいてもしょうがないと、オシュレットのスイッチを押し、秘部を洗 う。冷たい水流が心地いい。 トイレットペーパーを手にとり、小さく畳む。中腰になってお尻を上げ、後ろ手につ いた水分を拭いた。 (大丈夫だよね。汚れてないよね。昨日の夜、きれいにしたのにな。朝になって、また なんだもん。しょうがないけど、ちゃんときれいにしておかないと・・・) そんなことを思いながら、膝まで下ろしていたグレイのショーツと、デニム地のショ ートパンツを上げる。ノブをひねり、勢い良く流れていく水を確かめて、ショートパン ツの前を止める。 トイレを出て、洗面台で手を洗い、正面にある鏡で前髪を整える。そこから2歩ほど 歩くと、すぐにベッドの置いてある部屋になる。1Kの間取りのアパートには、秋の 明るい朝の日差しが差し込んでいた。 「んー、いい天気。デートには最高の日ね」 そう言って背伸びをした後、望は窓のカーテンを閉め、テレビの台にしているチェス トの前に座り込み、一番下の引き出しを開ける。そこは彼女の下着類が納められてい た。 そこから、1枚のショーツを取り出し、両手で広げた望は、「うーん」と唸った。 「こう言うほうが、男の人って、喜んでくれるんだよね」 それは白いレースのフリルをふんだんにあしらった、純白のショーツだった。 確かに、可愛いと思って買ったものであり、気に入っているものであるのだが、それ を実際に履くのには少しばかり抵抗があった。なんとなく、自分には似合わないような 気がして、ついつい、スポーティショーツを使いがちになってしまう。 そんなショーツがなんだかんだで、20枚ほどあるだろうか? 「よし!」 踏ん切りをつけるように、そう言って、望はそのショーツに履き代える。ついでとば かりに、それに見合うようなデザインのブラジャーを取り出し、タンクトップを脱ぐ。 その下には、水着の日焼け跡が残る、見事なアスリートの上半身があった。 日焼けから逃れた白い素肌の胸は、張りがあり形も素晴らしいものだった。その胸に ブラをつける。スポーティブラに慣れている身には、この形のブラは少々違和感があ る。 部屋の隅にある姿見で、自分の下着姿を見る。 「うーん、これは似合っているのか、いないのか。わかんないなぁ」 苦笑いと共に、思わず口に出た感想だった。望の可愛らしい顔に、純白の下着は似つ かわしいものではあるのだが、水泳で鍛えられた体に、こういうデザインが似合うかど うか? 彼女には判断がつかなかった。 (ま、いいよね。見られるにしたって、暗い中だろうから。どうせ、その時はパンツし か見てないんだから) そこまで考えて、ふと望は思った。 (やっぱり、替えの下着は2枚ぐらい持っていかないといけないんだろうから、これを 替えにして、いつものにして行こう。 ・・・俊哉はなかなか脱がしてくれないから、パンツ汚れちゃうもんね) 恋人の俊哉の顔と、セックスの時の事を思い浮かべて、望は頬を染めた。 「そろそろ行かないと、遅刻しちゃな」 望は青いワンピーススカートを洋服ダンスから取り出し、慣れた手付きで着る。高校 の頃はボーイッシュな服を着ていたものだが、卒業して約一年半。こういったスカート にも、ようやくのことで慣れていた。 清川望は19歳。きらめき高校を卒業して、現在、実業団で水泳をしている。今日は 久しぶりの完全なOFF日で、これからデートに向かうところである。 相手は同じ高校の同級生で、名前を狩野俊哉。同じ水泳部出身で、卒業式の日、望か ら告白して付き合うようになった。 そこから先は早かった。卒業してから2回目のデートで、二人はベッドに入ってい た。 きっかけは、俊哉の「セックスしよう」と言う、あまりにストレートな言い方だった のだが、性格からか、回りくどい言い回しより、はるかに好感が持てたので、少し悩み ながらも望は首を立てに振ったのだった。 好きな彼の言う事に、なかなか首を横に振れないというのも確かにあった。 が、休みがなかなか合わないと言うこともあったし、処女を捧げるのは俊哉しかいな いと思っていたから、それが早いか遅いかの違いだと思ったのである。 処女の痛みはあったものの、俊哉の優しいセックスは、最初のセックスで、望にささ やかなエクスタシーさえ、もたらしていたのだった。 そこから先の、望の性の目覚めは凄まじかった。ほとんど毎回のようにデートの度 に、二人はホテルに入った。両親と同居の俊哉、寮生活の望が、安心して肌を重ねるこ とが出来たのはホテルだけだったのだ。 その度に、望は新しい快感に目覚めていった。 誘うのはもっぱら俊哉のほうだった。年齢的に一番セックスがしたい年ごろなのであ る。望も自ら誘うようなことはしなかったが、そういう雰囲気になるように仕向けたこ ともある。 二人とも運動部出身という事で、激しいセックスをしても、肉体的に身体がもたない という事はない。と言うのが大きかった。若い俊哉のペニスは、何度射精しても、少し の刺激ですぐに復活し、望を貫いた。二人の猛獣のような荒々しいセックスは、1日中 でも続けられるのではないかと、彼ら自身が思っていた。 ベッドの中(もちろん、それ以外の時もあるのだが)での俊哉は、普段より少し強引 になる。 望に様々なことを要求する事があり、望もそれを受ける。俊哉のいう事には出来るだ け応えたいと、日頃、思っていると言うのが大きいが、事セックスに関しては、それ以 上に、開発される悦びの方が大きかったかも知れない。 例えば、フェラチオを要求された時、当初の戸惑いは大きかった。男性器を口に含む と言う行為は、知識としては知っていたが、実際にそれをするとなると話は違う。 だが、俊哉の熱い分身を口にしていると、たまらなく、いとしく思え、あごが疲れて もなお、音を立てねぶる事さえあるのだった。 そうしている内に全身が熱を帯び初め、熱い泉で満たされた自らの秘部に、それを突 き立てたくなってしまう事もしばしばだった。 (だけど、お尻はなあ・・・) 待ち合わせの場所に向かう、立ち席の電車の中で、ショルダーバッグを直すしぐさの 中で、無意識のうちに右手の甲でお尻の部分を抑えた。 俊哉は望の後ろの秘門も求めて来た。初めは指で撫でる程度のものだったが、やがて 口で愛撫をするようになり、指を直腸に潜り込ませるまでエスカレートしていった。 だが、望はそれを嫌がっているわけではない。正確に言うと、俊哉の行為そのもの は、望も望んでいるのだった。 だが、排泄器官である肛門で悦楽を得る事に、言い様もない背徳感と嫌悪感があるの である。 なぜ後ろで感じてしまうのか? 望には判りかねるのだが、その兆候は高校時代から あったように思われる。 水泳には食事制限と言うものがない。もちろん、バランスを取るのは当然なのだが、 新体操とかのような、極端に量が少ないと言うことはない。 だが、水に潜る競技なので、体調を崩すことがある。特に望が悩まされたのが便秘だ った。いろいろくすり等も試したが、結局、一番効果があったのが浣腸だった。 一人、自室のトイレで、浣腸器を肛門に差し込むと言う、人に見られてはとても出来 ないような羞恥心を伴う行為を経た後、痛みにも似た苦悶を味わい、やがて来る恍惚感 と共に行われる排泄。 自分では否定したくとも、望自身の奥底には、その全てに快感めいたものを感じてい た自分があったと、今になってみて思う。 俊哉の指が、第2の処女の門をこじあけ侵入してきた時、まるで焼けた鉄の棒を突き 刺されたような感覚を覚えた。石けんで滑りが良くなった俊哉の指は、さらに奥へと、 いともたやすく進んでいった。 痛みはあった。だが、それ以上に、自らが、俊哉にさらなる屈服をしたというマゾヒ ティックな感覚と、墜ちていくという背徳感、そして言葉に出来ない、おぞましくも全 く新しい快感に、望はため息のような声で喘いだものだった。 四つんばいの格好で、無意識のうちに腰を振り、俊哉の指が入れやすいような姿勢を 取ってしまう望だった。 そして、セックスの最中に、望の溢れ出る愛液を潤滑剤にして、後ろを責められた時 には、失禁してしまうと思ったほど、訳も判らず感じまくってしまった 秘唇には俊哉 の肉棒、後の門にはたくましい指が突き刺さり、望を攻め抜いたのである。 お尻でも感じることが出来る。その事は、望が何も言わずとも、俊哉にも伝わり、そ の開発も進み、やがて俊哉の指を2本も受け入れられるようにまでなっていた。 俊哉は決してアナルのみに拘っているわけではない。偏執的にアナルばかり責めるの ではなく、時には優しく、時には荒々しく望を愛した。そうでなければ、さすがに望も 着いて行けなかっただろう。 そして、「今日あたり」と言う予感めいたものが、望にはあった。 前日から食事を控え、前夜には腸にあったものを浣腸で取り払い、おふろでしっかり と洗ってしまったほどだった。 (やだ・・・) その時、望は人知れず赤面してしまった。自らの秘部が熱く濡れ、今しがた履いて来 たばかりのブルーのスポーティショーツを、しっとりと湿らした事を自覚したからだ。 (私、エッチになっちゃたなあ。俊哉くんにしてもらえると思うだけで濡れちゃうなん て・・・) 俊哉に性の開発をされていく自分に戸惑い、背徳感に恐れを抱きつつも、それは不快 ではない。 その快感の前には、墜ちていくのも、俊哉のためなら幸せだ、と、思えるようになっ ている望だった。 そして(今日、こんな調子で、替えの下着が足りるかな?)、と心配しまうのだっ た。 結果から言えば、その心配は逆の意味で杞憂に終わることになる。 「ごめんね。待った?」 約束の場所、駅前の花時計の前に、望は5分前に着いたのだが、そこにはすでに俊哉 が待っていた。 謝る望に、俊哉は笑顔で手を振った。 「いいんだよ。俺が来たのも今なんだし、遅刻したわけじゃないんだから」 「うん」 うなずいた望は、俊哉の笑顔に胸が高鳴る思いだった。付き合って1年以上も経つと 言うのに、相変わらず、俊哉の顔を見るだけで、胸がときめく望だった。 「で、どこに行こうか?」 お互い忙しく、今日の日時と待合場所だけは決めていたが、それ以外のことは決めて いなかったため、望は俊哉に訊ねた。 「あ、えーーと・・・」 俊哉らしくない、はっきりとしない態度を、望は不思議に思った。そんな望に気が付 いたように、俊哉は踏ん切りをつけた。 望の耳元に不自然にならない程度に近づき、小声でささやいた。 「今日は、1日、望と二人きりになりたい」 「?」 望は俊哉の言っている意味がつかめなかった。 その補足をするように、俊哉は続け た。 「今日は水曜日で平日だろ。カレラのフリータイムで1日二人でいよう」 望はようやく意味が分かった。カレラとは二人がよく使うホテルの名前である。そこ は平日なら夜7時までフリータイムで、休憩の料金ですごせる。 それは何度も行っているから知っているが、俊哉の言う意味は、望の股間を、さらに 熱くさせるものだった。それゆえ、俊哉は切り出しにくかったのだろう。 (駄目か?) と言いたげに、自分を見つめる俊哉の顔に、望の胸が甘く締め付けられる。 (もう、俊哉くんたら、今の私に断れるわけないのに・・・) そんな思いと共に、望は顔を赤らめながら、無言でうなずいた。 「そう、良かった。望に怒られるかもと、不安だったんだ」 (そんな事ないのに。私も嬉しいよ) 望はそう思ったのだが、口を突いて出てきた言葉は、全く別のものだった。 「でも、いつもじゃ、いやよ」 恐らく照れ隠しだろう。そんな事を言いながらも、望は俊哉の手をとった。 「うん。今度はそうしようね」 俊哉はそう答え、望の手をとり歩き出した。 ホテルに入る前、二人は道沿いにあるコンビニエンスストアで、食料等を買い込ん だ。 ホテルでは部屋から出ることは出来ないし、食事を取ったりすると、高くつくと知っ ているからだ。 望は栄養のバランスを考えながら、食料を買っていくが、その量は多い。あっと言う 間に、買い物かごがいっぱいになってしまった。俊哉がお菓子を選んでいる時、望は思 い付いたように、コンドームに手を伸ばした。 最近のコンドームは、箱もカラフルになり、それを意識させない包装になってはいる が、それでも単体では買いにくい。今なら、食料にまぎれて買いやすいと思ったのであ る。何枚使うか? 今日は本当に分からないのだ。 ついでとばかりに、ベビーオイルも買ってしまった。今日、必要になるかも知れな い。そう思ったからだ。 後ろの処女を捧げるかも知れない。その可能性はさらに高まった。そう考えると、望 の全身に、寒気がするような興奮が電気となって流れた。望のクレバスが愛の泉を沸き 立たせ、ショーツを濡らす。 もう、湿っていると言うレベルではない。それはぬるぬるとした触感をもって、望の 股間にまとわりついた。 誰が知るはずでもないのだが、にぎわっているコンビニの中で、セックスの事を考え てショーツを汚している自分に恥ずかしさを覚え、望は赤面しながら、うっすらと汗を かいた。 「もう、いい?」 俊哉の問い掛けに、はっと我にかえり、望はうなずいた。 「う、うん。もういいよ」 変に口ごもる望を不思議に思いながらも、口にはせず、俊哉はレジへと向かった。 会計を済まし、大きめの買い物袋を、それぞれ一つづつ下げながら、二人は歩いた。 行き先のホテルは、駅からやや離れているが、歩いて行けない距離ではない。 ほんの少し汗ばみながら、誰もいないホテルのロビーに着くと、俊哉は全室の部屋の 写真が並んでいるパネルのボタンの一つを押した。 「304号室」 短く言った俊哉の言葉に、望はうなずきながらエレベーターに向かった。 俊哉の声が、多少かすれていた。彼も緊張しているようだ。それが判った望は、エレ ベーターの中で口を開いた。 「俊哉くん」 「ん?」 「私もね、今日、俊哉くんと二人きりでいたかったの。俊哉くんがああ言ってくれて、 本当は嬉しかったのよ」 望にそう言われて、俊哉の顔がぱっと明るくなる。 そんな表情が嬉しくて、望は笑顔と共に言った。 「いっぱい、しようね」 俊哉は何も言わず、望の唇にキスをした。 部屋に入ると、とりあえず生の物を無料の冷蔵庫に入れる。その後、望は立ち上がり ながら言った。 「シャワー浴びてくるね」 「え? まだ、いいじゃないか。ゆっくりしたからで」 「だって、汗、かいちゃったもん。さっぱりしたいの」 「・・・うん。そうだね」 俊哉はこういうところは優しい。本当は濡れたショーツを取り替えたい、と言う原因 が大きかったのだが、まさかそれを口に出すことも出来ない。 俊哉に押し倒されでもして、濡れたショーツを触られたら、と思うの恥ずかしくて死 にそうだった。何もしてないのにショーツを濡らす。自分がひどく淫らな女だと、俊哉 に思われてしまう事は、望には、まだ、耐える自信はなかった。 替えの下着の入ったバッグを持って、浴室に向かう。 浴室の前に洗面台があり、そこもまた、ドアで仕切られていた。そのドアを閉め、そ の空間に一人きりになると、一つ安心したようなため息をついてから、望はさっと服を 脱ぐ。残りはショーツ1枚と言うところで、望は自分の股間を見下ろした。 ブルーの生地が濡れて、一部分だけ三角形に紺色に変色していた。 (すごい、こんなの初めて・・・) 濡れているのは判っていたが、ここまでとは思いもしなかった。両手でショーツを下 ろすと、透明な糸が何本も延び、そして切れていく。外気に触れた陰部の愛液が冷やさ れ、またそれが新たな刺激となって望を襲う。 (やだ。ちゃんときれいにしなくちゃ。俊哉くん、ちょっと待っててね) 飛び込むように浴室に入り、シャワーのコックをひねる。適温のお湯で身体を流し、 濡れた股間も洗い流す。 シャワーの水流が快感をもたらす刺激となる。 「あん」 俊哉には聞こえないだろうと、それまで我慢していた声を小さく出す。 (今日はどうしたんだろう、私? こんなに感じるなんて・・・) 空いている右手をクレバスに伸ばし、俊哉と付き合う前に覚えたオナニーをしかかっ て、望は「あっ」と驚いたような声を上げる。 そのまま右手を拳にして、軽く頭を叩いた。 (なにしてんの? 馬鹿ね) 今はそんな時ではないと気づき、身体の隅々まで、磨くように丁寧に洗った。 浴室を出て、身体を拭く。大義名分だった汗も洗い流せたので、自分が思っていたよ りさわやかな気分になった。 バッグから、白のレースのショーツを取り出し、ブルーのショーツを袋に入れてから しまった。 シルクで作られたショーツは、履くだけで足元から腰に向かって、ちょっとした快感 を望みに与えた。 (参ったな) 望は普段とは違う感じやすい自分に戸惑いながらも、ともかくノーブラのまま、洗面 台のそばに備え付けられていた浴衣を着る。 「うーん」 洗面台に付けられている、大きな鏡に写った自分の姿に、望は唸った。 このホテルは内装も下品ではないし、清潔だし、気に入っているのだが、この浴衣だ けはどうにも気恥ずかしい。 すそが極端に短くて、望のすらりとした足が丸見えになってしまい、ちょっとかがん だだけでもショーツが見えてしまうのだ。 (まあ、元々がそういう目的に作られたんだもの、しょうがないと言えば、しょうがな いけどね) 身もふたもないことを思いながら、望は俊哉のいるベッドルームへと戻る。 「お先に」 「あ、ああ。それじゃ、俺も浴びてくるよ」 目のやり場に困るように、望の方から視線をそらし、俊哉が入れ代わりに浴室に向か った。 その仕種が、望には妙におかしい。暗がりの中とは言え、ベッドの中では、あれほど 力強くリードするのに、足が見えただけであんなに動揺するなんて。 望はこらえきれずにクスクスと笑った。 俊哉がシャワーを浴びている間に、望にはやる事があった。先ほどのコンドームを、 ベッドから手の届くところに置いておきたかったのだ。買い物袋から取り出し、封を切 って中身を手にし、望は考え込んだ。そして、枕元あたりのベッドの下に、それを置こ うとした。 だが、そこにはすでに真新しいコンドームが、半ダース、陣取っていたのである。 それを置いたのが、俊哉だと言うことは明白だった。望とほとんど同じ事を考えてい たと言う事である。 どうも、今日は望と俊哉のバイオリズムが一致しているらしい。 (これは、何試合することになるか、わからないなあ) 望はクスリと笑った。 俊哉のシャワーは早い。そうこうしている内に、浴室のほうから出る音がして来た。 望はベッドに腰掛け、リモコンでTVをつけ、平日、午前の編成らしい、昔のTVド ラマの再放送を見始めた。もっとも、その内容は頭を素通りしていったが。 ベッドルームのドアが開いた。望がそちらに目を向けると、バスタオルだけを腰に巻 き、上半身は裸の俊哉が立っていた。 ”ドキン”と、望の心臓が跳ね上がった。たくましい俊哉の胸まわりは、望には見る だけでも十分な刺激だった。 「望」 「なに?」 「電気とTV、消して」 「・・・」 それがなにを意味するか、望には判った。ほんの少しの間を置いた後、望は枕元のス イッチとリモコンで、全ての電気とTVを消す。 部屋が真っ暗になったその直後、ぱさっ、と何かが落ちる音がした。それが俊哉の付 けていたバスタオルだと、望は本能的に判った。 じゅうたんの上を足音が近づき、俊哉が望の右隣に座る。ベッドが沈み込み、望の身 体が、その傾きと望の意志によって、俊哉の方に寄る。 「望」 そう言って、俊哉は望を抱きしめる。望もそれに応えて、俊哉を抱いた。 「抱きたかった。今日はなんだか、望を抱きたくって、しょうがなかった」 「ああ、私も・・・」 望の言葉を最後まで待たずに、俊哉の口が望の口を塞ぐ。最初は唇を合わせるだけの 軽いものだったが、俊哉の舌が望の中に入り込むと、望も舌を絡めあう。すぐに全身が とろけるようなディープキスになっていった。 想像した通り、俊哉はすでに裸になっていた。そして硬直した俊哉の分身が、望の下 腹あたりに、押さえ付けられるように当たる。 キスの最中に見えはしないが、それがはち切れんばかりに勃起し、そそり立っている だろうと言う事は判り過ぎるぐらいに判る。 仮にキスをやめて見ようとしても、まだ暗闇に目が慣れず、それを見ることは出来な いだろうから、そうしない。もっとも、そもそも、今はキスをやめようなどとは、露ほ どにも思えなかった。 やがて、上半身から力の抜けた望が、ベッドに倒れ込む。それを支え切れずにつられ るような形となって、俊哉が望の上に覆いかぶさった。 「むぐ、うん、俊哉くぅん、ん」 「のぞ、み」 キスをしたまま、望は言い、俊哉も応える。 俊哉の右手が、申し訳程度に望を覆っている浴衣の帯をほどき、優しく浴衣の前をは だける。 今、望の裸体を隠しているものは、先ほど履いた、面積の小さな白いショーツと、両 腕から抜け切れない浴衣の袖だけである。 そろそろ目が慣れてきたのか、俊哉は望を上から下まで見回した。 「きれいだよ。望」 「やん、恥ずかしい、見ないで」 望は恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆った。 「可愛いパンツだね」 「うん。俊哉くんのために選んだの。・・・似合わない?」 「そんな事ないよ。とっても可愛いよ」 「ほんと?」 「本当だよ。嬉しいよ」 「ああ、私も俊哉くんが喜んでくれたら、嬉しいな」 そう言って、恥ずかしさを振り払って、望は両手を拡げ、それに迎えられるように、 俊哉が望の上から抱きしめる。 ねっとりとしたキスを交わしてから、俊哉は望の左頬から耳へと、キスしていく。暖 かい俊哉の唇が触れた部分から、まるで熱が全身に帯びるように広がっていく。 俊哉は耳から、首すじ、肩口、そして鎖骨のあたりをていねいに愛撫していく。 「ああん」 望は鎖骨が弱い。セックスを覚えてから判ったことだが、鎖骨の上をキスされると、 我慢しきれず声が出てしまう。かなり敏感な性感帯があるのだろう。 「や、はあん! いい・・・。気持ち良い・・・」 もう、全身、完全に力が入らない望は、俊哉のなすがままだ。 俊哉の口での愛撫が胸の突起にかかった時には、目をつぶっていた事もあって、もう 自分の位置が判らなくなっていた。ベッドに対して縦に寝ているのか、それとも横に なっているのか? 自分では力が入らないのに、身体が勝手に動いてしまうのだ。 いつの間にか、俊哉の手によって浴衣が脱がされており、最後のショーツに俊哉の手 が届く。 ショーツの上から、女の三角形を俊哉が優しく撫でると、激しくはないが、心地好 く、それでいて鋭い快感が脊椎をひた走る。 (この回は、ソフトにしてくれるのね) なかば朦朧とした意識の中で、望みがそう思ったその時、望の耳元に顔を近付けた俊 哉が、甘くささやくように言った。 「ここ、湿ってきたよ」 望は頬がかーっと赤くなるを自覚した。 「ばか。・・・俊哉くんが・・・こんなにしたのよ。・・・責任・・・とってね」 望は笑った。なぜそうしたのか判らないのだが、とにかく笑うしかなかった。 嘘をついてしまうことになるからだろうか? 俊哉と落ち合う前から、もう、望の蜜 壺は暖かい蜜を溢れさせていたのだから。 「下着、・・・脱がして。 ・・・汚れちゃうから」 もう少し望の下着姿を見ていたいような気持ちもあったが、俊哉は慣れた手付きで、 するするとレース生地の布を、望の足へ下ろしていく。 「ちゃんと手入れしてるんだ」 「やだ、見ないで」 望はさすがに両手で股間を隠す。競技用水着は、それほど角度がきつくはないが、そ れでもビキニラインには気を使う。 望のふわふわとしたアンダーヘアは、きれいに手 入れがされ、管理の行き届いた芝生の庭を連想させる、深緑色の草むらがそこにあっ た。 「駄目だよ、隠したら。もっとよく見せて」 優しく望の手をどけて、俊哉は顔を近付ける。 暗闇とは言え、自分の秘部を見られると言う行為。今まで何度もあった事なのに、恥 ずかしくて、顔から火が出る思いをするのは、今も変わらない。 ただ、その羞恥心が、愛の蜜をさらに沸き出させるようになったことが、以前との違 いだった。 俊哉がクリトリスに触れ、やがてクレバスに指を侵入させる。 「あん、あん、ああん!! うんんん」 声を上げ、だらしなく唾液を口元に垂らす望に、我慢の限界点が近づいていた。 (入れて!! 我慢できないの!! 俊哉くんのオチンチンちょうだいぃ!!) 望は心の中では、激しくそう叫んでいたが、口に出すことは、恥ずかしくて今だに言 えない。 望の思いを知ってか知らずか、俊哉は右手で望の秘部を愛撫し続ける。同時に乳首を 口に含み、舌で転がすようにして、さらに望の首に回した左手も、休む事なく望の左耳 を責め立てるからたまらない。 (いい! 気持ちいいのっ!! だからちょうだい!! 朝からずっと我慢してたの! 俊哉くんのオチンチンを、オマ○コに入れてぇっ!!) あえて言葉にすればそうなるのだが、実際は、もっと混沌とした、どろどろとした性 への欲望が、望の中では渦巻いていた。その欲望の高まりが、望自身をさらなる快感へ と導いていた。 それが心の中だけならば、どんな淫らな妄想にふけようと、さして恥ずかしさは感じ ない。だが・・・。 「あああ、もう、ん、ん、うん! もう、入れてぇ」 訳も判らず、甘えるように、そう口に出してしまった。望はそう言ったこと自体、自 覚していなかったのだが、俊哉がわが意を得たり、と言った表情で望に聞く。 「なにを? なにを入れるの?」 羞恥心が望の耳たぶを真っ赤に加熱する。望は我が身の愚かさに身をよじる思いだっ た。 時々、俊哉の方から、「欲しい?」というような言い方で聞いてくることがあり、そ れから、望に卑猥な単語を言わせようとするのだ。 それが今度は自分で切り出してしまったのだ。 望が答えずにいると、俊哉はそれまでしていた愛撫を止め、右手の人差し指の先を、 クリトリスに触れるか触れないかの位置で止める。 それまで加速していた快感を急速に止められ、望の身体が狂おしいまでの切なさを訴 える。 「やだやだやだ、やめないでぇぇ」 甘く切なく訴える望の声にも、俊哉は答えない。 「なにを入れるの?」 「・・・意地悪ぅ」 「なにを入れるの?」 同じ質問を繰り返す俊哉に、望は観念する。 「俊哉くんの・・・オチンチン」 言ったと同時に、愛の蜜が、望にクレバスから、どっと溢れ出すのを感じた。 「どこに? どこに入れるの?」 俊哉はさらに質問を変える。そうしながら、空いている左手で、カサカサとかすかな 音を立てて、スキンを準備する。 その音を聞いて、俊哉がその準備をしていると望にも判ってはいるが、質問に答えな い限り、望の欲しいものは与えてくれない事を、彼女は知っていた。 「・・・オマ○コ・・・」 消え入るような声でそう言ったが、俊哉は聞こえない振りをする。 ああ、やっぱりと望みは思う。 淫猥な言葉を吐かせることによって、俊哉は快感を 得たいのだ。俊哉が望むなら、なんでもしてあげたい。だが、こういう羞恥を伴う行為 をする事は、どうしても抵抗感を拭えない。 しかし、下半身から攻め寄せる切なさに、これ以上は耐え切れそうにない。 「ああん、も、もう来てぇ!! 入れてっ! 俊哉くんのオチンチン、オマ○コに入れ てぇっ!! お願いぃ! 私、おかしくなっちゃうぅ!!」 望は叫んだ。 その声を聞いた俊哉は、望の両足の間に身体を割り入れる。両手で望の腰を抱きかか えると、てらてらと光るゴムの色に覆われた剛直を、望のクレバスに押し当てる。 「望!!」 そう叫ぶと、俊哉は一気に望の中に突き刺した。 「あああああああっっっ!!!」 グサリとした感覚が、望の粘膜の筒の中を駆け巡る。うねうねと蠢く蛇のような快感 が全身の肌の下を駆け巡り、全ての神経組織が快感を求め、電流の火花を散らしている ような感覚が、望を更なる快楽の深海へといざなう。 「これっ!! これぇ。・・・これよ。これが欲しかったのぉん!! 素敵、素敵ぃぃぃっ! 気持ち良いぃぃぃぃっ!」 望は短い髪を振り乱し、ベッドの上で頭を激しく振った。 なにがなんだか判らなくなる、オルガスムス直前の感覚が望を包む。いつもよりも、 はるかに早い。 今日は何かが違うと思ってはいたが、ここまで違う事に望自身が驚いた。 行きたい。まだ行きたくない。相反した欲望が、望の頭脳を駆け巡る。 「はあ、はあ、・・・望、・・・気持ちいい?」 荒れた息で俊哉が聞く。彼も感じていると思わせるその口調が、望の精神に、歓喜を 含んだ快感が押し寄せる。 「いい、気持ちいいのぉ。俊哉くぅん! 好きいぃぃぃぃぃっ」 「俺も好きだよ」 俊哉はそう応え、腰を前後にグラインドさせる。 「あああ、いいっ、最高よぉ」 「望、もっと、いらやしい事を言って。エッチな言葉を聞かせて」 今度はためらわなかった。 「ああ、いいわ! オチンチンいいの。オマ○コ気持ちいいのぉぉっ もっと・・・もっとしてぇっ! オマ○コ突いてえぇぇぇぇぇぇっ!!」 一瞬、冷静な自分が脳裏によぎる。よだれを垂らし髪を振り乱し、セックスによがり 狂う自分を見せ付ける。だが、それがまた一つの殻を破るように、新しい快感を望に もたらした。 (私、私、こんなにいやらしいの。こんなにエッチな女の子なの。 俊哉くんなの! 俊哉くんが私をこんなにしたのよ・・・。私、俊哉くんが望むな ら、もっといやらしい女の子になる。 だからもっとして。もっと愛して) もはや、望の意識の外で、望の両足が俊哉の尻を抱きしめるように取り付き、望の中 へ押し込むように、俊哉を押さえ付ける。 剛直がさらに望の奥を刺激する。同時に俊哉にも凄まじい快感をもたらす。 「うわあっ! 望の・・・オ○ンコも、熱くて、・・・ぐいぐい締め付けてくる。最高 だよ。望」 「本当? 俊哉くんのオチンチンも、・・・硬くて・・・熱くて、焼けちゃいそう!! ああぅ!! 駄目ぇっ。気持ち良すぎるうぅぅぅぅ!!」 「望、俺、もう駄目。・・・行っていい?」 俊哉とて、余裕を持って望を責め立てているわけではない。俊哉自身でも驚くような 興奮に、彼自身の欲望のマグマも、すでに爆発寸前になっていたのだ。 「いいの、いいのっ!! 来てえっ!! 行ってぇぇっ!! 私も・・・ハアハア。 私も、も、もうイっちゃうからぁ!!!」 望のその言葉が引き金となった。 「のぞみぃぃぃっっ!!」 「としやくぅぅぅぅんっ!!」 二人はほぼ同時に絶頂を迎えた。それは二人とも経験したことがないような、深く、 そして、高みに昇りつめた絶頂だった。 いつ果てるとも知れぬエクスタシーの波が、次々と望に押し寄せ、望は半分意識を失 いながら、その享楽を貪った。 どのぐらい時間が経ったのか判らない。ふと気が付くと、俊哉が望に半身で覆いかぶ さるようにして、彼女の瞳を見つめていた。 「・・・あ、いつから、そうしてたの?」 我にかえった望の第一声に、俊哉は優しく微笑みながら答える。 「えーと、5分ぐらいかな」 (え、そんなものなの?) 望は思った。もっと長い時間のような気がしたが、言われてみれば、まだ、小さくで はあるが肩で息をしてしている。それほど時間は経ってはいない。 「気持ち良かった?」 そう聞いて、俊哉は望を抱きしめる。エアコンの風に冷やされたお互いの汗が、ひん やりとして気持ち良い。 望も、俊哉の首に両手を回して答える。 「うん、気持ち良かった。・・・というよりすごかった、かな? だって、俊哉くんったらすごいんだもん」 最後には、照れたように笑ってしまった。 「望こそ、なんか今日、すごいね」 「・・・嫌いになる?」 「馬鹿だな。そんな事で嫌いになるわけないだろ。・・・むしろそっちの方が嬉しいぐ らいかな」 俊哉はそのまま、望を抱きしめた腕に少し力を入れた。 その心地いい圧迫感が、望には気持ち良い。まだ、望の身体中で、小さな火花が散る ように、あちこちに余韻が残っていた。そんな時に俊哉に抱きしめてもらうのは、この うえない幸福感を望にもたらしてくれた。 (こういう時に、ギュって抱きしめてくれるから、俊哉くん、好きなんだ) 幸福感の中、望はそう思った。 二人とも無言のまま、しばらく時間が流れた。潮が引くように、絶頂の余韻が消えよ うかという頃、俊哉の手がほどかれる。 「俺、シャワー浴びてくるよ」 そう言って、すっとベッドの脇に立つ。 望は止めなかった。これは、まだそのままになっているスキンと、その中のスペルマ を処理するために、俊哉がするいつもの行為なのだ。そういう姿を、望には見せまいと しているのである。 バスルームに消えていく俊哉の背中を見送った後、望は上半身を起こす。 望の女の部分は、まるで失禁したように濡れそぼり、シーツまでそれは及んでいた。 (やだ、すごい) まだ、頭はぼうっとしているが、その有様が異様なものだということは判った。だ が、望の秘部の奥底の部分にくすぶっていた残り火が、この光景に再燃しつつあった。 自らの痴態を想像して、消え入りそうになっていた情欲が、再び頭をもたげ始めたの である。 しかも、時間は、まだまだ、たっぷりある。 望は意を決した。 一糸まとわぬ姿のまま、バスルームへと向かう。洗面台の鏡を見て、乱れた髪を整 え、顔を洗う。すりガラスの向こうでは、俊哉が望の気配を察知して動きを止めてい る。 シャワーの音だけが響く中、タオルで顔を拭いた望はバスルームのドアの前に立つ。 「俊哉くん。・・・私も入っていい?」 しばらく間があり、答えが帰ってくる。 「いいよ。入っておいで」 望は胸を右手で押さえ、やや内股気味になってドアを開けた。 「!」 想像した事とは言え、目にした光景に望は息をのんだ。 バスルームは、ベッドルームのような分厚いカーテンはない。やや大きいすりガラス からは、柔らかな日差しが差し込んで、バスルームは充分過ぎるほどの明るさに満ちて いた。 その中に俊哉は堂々と立っていた。足を肩幅ほどに拡げ、両手はなにも隠してはいな かった。 「駄目だ。望」 びくっとして、望は足を止める。俊哉は緊張したような表情で続けた。 「隠したら駄目だ。両手を下ろすんだ。そのために来たんだろ?」 その言葉で望は両手を下ろし、堂々と胸をはった。 俊哉がにっこりとほほ笑む。 「きれいだよ。とってもきれいだ。・・・おいで」 無言でうなずき、なにかに操られるような足取りで、望は俊哉の元へと歩いた。 俊哉もなにも言わず、左手で持ったシャワーで、望の身体にお湯をかける。髪、首す じ、肩の順で洗われる所を、右手で軽く撫でるようにこする。 望はやがてうっとりとした表情になり、両手のひらを俊哉の胸に押し当て、ため息を 突きながら、彼女の手の中間、俊哉の胸に右の頬を当てる。 俊哉はシャワーをフックに掛け、両手で望の背中を洗う。 降り注ぐシャワーの中、二人は濃密なキスを交わす。 「はあ・・・」 悩ましげなため息をついた後、望はゆっくりと俊哉の前にひざまずく。望の目の前に は、下を向いてもなお、黒々とした、たくましい俊哉の男根があった。 「あ、望」 一瞬躊躇したようにそう言った俊哉にかまわず、それをいとしそうに口に含む。 間もなく、男根は望の口の中で、その強度を増し、むくむくと体積も増大していっ た。 「もぐ、んぐ。としやくん、気持ちいい?」 恍惚と苦悶が入り交じったような表情で、上目づかいの望が聞いた。 その表情が悩ましげで、エレクトするスピードがあがり、あっという間に望の口の中 でそそり立った。 「気持ちいいよ。判るよね? それを見れば」 望は鉄のように硬くなった肉棒をくわえながらうなずいた。 俊哉が上半身をひねり、なにかシャンプー類のポンプを押す音が数回、望美の耳に届 く。 ひょっとして? という思いが望の中をよぎる。 「望、お尻を上げて」 俊哉の声に、望の身体をおぞましい期待感が駆け巡った。 俊哉を咥えながら、望は四つん這いになり、お尻を持ち上げる。俊哉が前屈みになっ て手を伸ばし、望のお尻に手を伸ばす。 「ひゃん!」 望は思わず声を上げた。 「駄目だろ。口を離しちゃ」 「だ、だってぇ」 望はささやかに抗議をしつつも、さらに口技を続ける。 お尻に伸びた俊哉の右手には、たっぷりとボディーソープが含まれていた。ぬるぬる とした感触と共に、望のお尻の谷間に、見る見る内に泡があふれていく。 「ああん!!」 たまらず、望が口を離した。その時、俊哉の中指が菊形の門を開き、潜り込んでいっ た。 「んーーーーー」 声も出せずに、望が苦悶の表情で悶える。頬がほんのりと桜色に染まり、シャワーの 湯気で上気した素肌は、つるつるとした光沢で包まれていた。 その姿態が悩ましく、俊哉はごくりと唾をのむ。 「の、望?」 「・・・ん?・・・」 「望の、お尻のバージン、・・・もらっていいか?」 望は硬直から口を離し、おずおずとした素振りで、無言でうなずいた。 素振りこそ、ためらいを表現していたが、内心ではすでに覚悟を決めていたことだっ た。 (このために、ちゃんと、きれいにして来たのよ) そう言いたかったが、踏み止まった。新しい世界への扉を開くのは、まだ、先でもい いと思ったのだ。 俊哉はコックをひねり、シャワーを止める。バスルームの中には二人の吐息、静かな 換気扇の音、さらに微小な、したたる水滴の音だけが聞こえていた。 俊哉は四つん這いのままの望の背後に回り込み、優しく、それでいて力強く、望のア ナルを揉みほぐす。 開発されつつあるとは言え、多少の硬さが残る襞も、ゆっくりとじんわりと愛撫され るにつれ、柔肌のような柔軟さと、パンティストッキングのような収縮性を持つように なって来た。 その間、望は苦痛とも快感とも言える刺激の中、甘い吐息を漏らし、俊哉の指に合わ せるように、はしたなく腰を前後左右に揺らした。 何の刺激も受けていないはずのクレバスから、愛液がたらたらと流れだし、ボディソ ープの泡を、太ももへと流していた。 ついに中指と人差し指、2本の指が門を開き、望の中でまるで別の生き物のように動 き回る。 「ん、んああぁ」 望は思わず声を上げた。 (ちょっと痛いけど、すごく気持ちいい。やっぱり、私、お尻で感じるんだ) ここに至って、望は認めないわけにはいかなかった。 おぞましさは今もある。だが、それすらこの快楽の前には、無視できるように思う。 自分は、今、墜ちているのだろうと、望は思った。だが、それがどうだと言うのだろ う。 愛する男と共に墜ちていくなら、それもまた愛の形の一つだろう。誰が非難をできる ものか。 ならば、この快楽を思う存分貪ろう。望の「女」の部分がそう告げ、望もそれに同意 した。 「ああ、としやくぅぅん」 望の甘えた声、それが合図だと言うことを、俊哉の本能が悟った。 新たな処女地に興奮し、熱く盛り立った自らの肉棒に泡の潤滑剤をなすりつけ、望の 後の谷間にあてがう。 「行くよ、望」 「う、うん」 それは太さや形の違いだけではなく、明らかな感触の違いと共に望の中に入り込んで きた。 最初のうちこそ抵抗があったが、お互いが思っていた以上に、意外とすんなりと、そ して深々と、望の奥に差し込まれていった。 望にしてみれば、めりめりと音を立て直腸に達した剛直は、未知の痛みをもたらした が、それ以上の快感も同伴していた。 「あ、はぁ、んっ!! くぅぅぅ」 ヴァギナとは明らかに違う、辛辣な快感が押し寄せ、望は歓喜の息を漏らし、その瞳 からは一筋の涙が流れた。 「痛い?」 心配そうに聞いた俊哉の声に、望は首を振る。 「ううん、・・・大丈夫。・・・ちょっと痛いけど、・・・でも気持ちいいよ。 大丈夫だから、続けて・・・」 喋る度に、唾液がだらしなく顎に垂れていく。それを拭き取る余裕は全くなかった。 快感に打ちのめされ、がくがくと小刻みに震える身体を支えるだけで、望の四肢は限 界だったのだ。 しばらくじっとしていた二人だったが、やがて望がゆっくりと腰を動かしはじめる。 それに合わせるように、俊哉も腰を回しはじめる。 突き刺さったペニスを、ゆっくりと出し入れし始めると、それに合わせて望があえぎ 声を上げる。 「ぐにゅぐにゅ」という音がかすかに響き、新しく踏み入れた淫堕の世界に、二人は 興奮し手足がしびれる思いだった。 「ん! 俊哉くん! どう? ・・・気持ちいい? はぁ、・・・私のお尻、気持ちい い?」 「気持ちいいよ、望。すごい締めつけで、痛いぐらいだ。 ・・・オマ○コも・・・お尻も、望は最高だよ」 「ほんと? 本当ぅ!? 嬉しい。嬉しいわ!! ・・・もっと、もっとして!! 俊哉くんの・・・好きなように、めちゃくちゃにしてぇ!!」 望の一言は、俊哉の理性を抹殺するには充分に悩ましく、刺激的なトーンだった。 「うおおぉっ!!」 野獣のようにそう叫び、狂ったように腰を前後に揺さぶった。 「ああああぁ!! うあががががうぅん」 望もまた、まるで動物のように意味不明の唸り声を上げ、腸内で突き蠢く狂暴な快楽 の化身を、全神経を動員して享受する。 「すごいぃ! すごすぎるうぅ!! 私、もう駄目ぇ! イっちゃう! イっちゃう!! お尻・・・いい!! お尻、気持ちいいっっ!! イっちゃうよぉ! 俊哉くんも来てっ!! 中に、・・・中に出してっ!!」 「ううっ!!」 ついに俊哉が果てた。若く猛々しいエキスが、腸壁に無遠慮にぶちまけられる。 「あはああぁぁぁ」 望も限界に達した。自らの意識からかけ離れた意志が、望の膀胱を決壊させる。黄金 のシャワーが噴流となってタイルに跳ね、あたりに飛び散る。 残った水たまりの中に、望の上半身が崩れるように倒れ落ちる。高く上がったままの 下半身には、未だに俊哉の凶獣が突き刺さったままになっている。 「はあ、はあ、はあ、はあ」 嵐のような息づかいをした俊哉が、その凶獣をゆっくりと引き抜く。 「はああん」 意識朦朧となりつつも、望の声帯は甘くくぐもった声を漏らす。 余韻を味わうかのように、すぼまり切れないアナルから、どろりとした白いスペルマ が流れ出し、ひくひくと痙攣する内股に、なめくじのように垂れ下がる。 その受ける場所が違うとは言え、望が初めて、じかに味わう男のエキスだった。 俊哉も崩れるように望の上で四つん這いになる。 二人は荒れた息をしつつ、しばらくの間、激烈な快感の余韻を味わった。 やがて、意識を取り戻した望は、右手を自分の秘部に伸ばし、俊哉の残した愛の印を 指に取る。 目の前に指を持ってきて、親指と人差し指を使い、その触覚を味わう。不意に笑いが こぼれた。 「あは、これが、俊哉くんの精液なのね。・・・初めて触っちゃった」 「そうだっけ?」 「そうよ。俊哉くん、いつも、自分で片付けちゃうから」 「だって、汚いだろ?」 「そうかな? 今、なんか嬉しかったよ。俊哉くん、中に出してくれて。 お尻だけどね」 えへっ。といった感じで、望は笑った。 それがおかしかったのか、二人は声を出して笑った。 「なんか、すごい事しちゃったみたいだね」 笑いをおさめて望が言った。 「大丈夫? 痛くない?」 「うん。なんだか、あと引いてるけど、大丈夫よ。・・・ただ」 「ただ?」 「なんか急に恥ずかしくなってきちゃったから、俊哉くん、一度、お風呂から出てくれ ない?」 「・・・うん、そうだね。そうするよ」 俊哉はそう言ってバスルームを出ていった。 それを見てから、望はのろのろと上半身を起こし、シャワーのコックをひねり、お湯 を出す。 (感じ過ぎちゃって、自分でも怖いよ。おしっこ漏らしちゃうなんて・・・) そんな思いを抱きながら、過重労働を耐え抜いた肛門を、いたわるように洗い流す。 そして、墜ちていく自分に恐れつつも、これから先、どんな世界が二人に待っている のかと想像して、胸を高鳴らせるのだった。 尿の匂いが残らないように、念入りに身体を洗ってから、バスルームを出た。浴衣が なかったので、バスタオルを胸の位置から巻いた。 明かりのつけられたベッドルームに出ると、今度は逆に俊哉が浴衣を着て、ベッドに 腰掛けていた。 その左横にちょこんと腰掛け、望は甘えるように俊哉の腕に抱きつく。 「うふふふふ」 「なにが可笑しいんだ?」 「だってぇ、嬉しいんだもん。俊哉くんに、いっぱいされて。 ・・・でも・・・」 と言って、左手を俊哉の股間に伸ばす。下着をつけずにいたため、剥きだしのままの ペニスに触れる。 「まだ、してくれる? もう、疲れちゃった?」 初めて味わう、望の醸し出す女の色香に戸惑いつつも、俊哉は笑顔で答える。 「いや。望が欲しいんなら。何度でもするよ」 「えぇ? して欲しいのは私だけぇ?」 「馬鹿。したくもないのに、ここが元気になるかよ?」 そう言って、俊哉は自分の股間を指差す。その意味に望はくすくすと笑う。 「ただ、その前に・・・」 「その前に?」 「お腹が空いたな。なんか食べよう」 望はベッドの脇の時計を見た。時刻はようやく、正午を30分ほど回ったところだっ た。 「あ、そうだね。私もお腹がすいちゃったみたい」 そうして二人は買ってきた弁当などを拡げて、昼食とした。 これも自分たち自身が驚く食べっぷりで平らげると、二人同時に大きな息を吐いた。 慣れない手付きで、望はごみなどを片付けて、サービスで置いてあったカップコーヒ ーを作る。 「どうぞ」 「ありがと」 望が差し出すカップを受け取り、俊哉はコーヒーを一口すする。 「さてと」 カップを置いて俊哉が言った。 「どうする? 少し休む?」 その質問の意味を理解して、望は言葉を選んで答える。 「でも、俊哉くん、疲れてない? 大丈夫?」 その答えに、暗に含まれる望の希望を察して、俊哉は望の手を取り、自らの股間に持 っていく。 「!?」 望は喜びと驚きの表情を混ぜ合わした表情を浮かべた。 望の手のひらの中、そこにはすでに、復活を主張してやまない俊哉の肉棒があった。 「俺はもう準備OKだぜ。問題は、望が今度はどっちを希望するか? だな」 「・・・やだ、もう・・・」 望の顔は真っ赤に染まっていた。 「どっち?」 「・・・前・・・」 「あ、あ、あっ、あ、あぅ! あ、ああん、うあ、あはぁっ」 望はただひたすらに悶え、声を露げ、淫媚な快感を、悦びを貪り続けた。 前を後を、欲望の赴くままに責めたてる俊哉のペニスは、物理的に放出するスペルマ が底をつき、異様なまでの持続を見せ、望を激しく嘶かせた。 望がどのぐらいになるだろうと思ったセックス回数は、もはや意味をなさなかった。 6回目までは覚えているが、その後は記憶があいまいになって、よく思い出せないの だ。 ただ、えも言えぬ、満ち足りた幸福感に望は浸っていた。 セックスが、これほどまでに身体、心、双方に満足感を与えてくれるとは、今日まで 全く知らなかった。 快感に溺れ、薄れ行く意識の中で望は譫言のように言った。 「俊哉、くん。・・・愛・・・してる」 後書き。 何ともはや、長いお話になってしまいました。 この「悦楽」シリーズの第一作目が、この清川編です。 本当はもっと短い話にする予定だったのですが、書いているうちに、ずるずると話が 長くなってしまいました。 話には聞くアナルセックスを、受け入れることが出来るとしたら誰だろう? その時に、真っ先に名前が浮かんだのが、清川だったのです。あと二人ぐらいは想像 できていますが・・・。 で、これは卒業してからのお話なのですが、相手をどうやって表現しようか? 悩み ました。結局「俊哉」と言う名前を与え登場させました。 はっきり言って、名前はどうでもよかったのですが(寄生獣か?)、これをどういう 人物と見るか? それは読まれる方の感性にお任せいたします。 最後に、改めてこの話を読み返して思うことは、清川の、幸せに墜ちていく様を描く ことが出来たのではないかな? でした。