ご案内のメニューに戻る
メインメニューに戻る

獅子の嫡子<7>

 
 
 首を左右に傾けながら、「あー、さすがにきいたなあ」とビリーは言った。
 彼が辿り着いたのは「ネオタンドリー」と言う都市だった。途中、いくつかの小さ
な町、いや、集落と言うべきところは通過してきたのだが、情報を集めるという点で
はある程度の大都市でないと不便だと予想してのことだった。
 それにも増して、ビリーを悩ませたのが、「砂ぼこり」だった。
 地上、宇宙空間と使えるスピーダーだったが、砂また砂の砂礫地帯での走行はスピ
ーダーにダメージを与えていた。防塵仕様にしてなかった事を悔やんだが、過ぎてし
まったことは仕方がない。これからどうするか? を優先させるビリーだった。
「こういう都市にスピーダー用の部品があるとも思えないが」
 といいつつ、駐機スポットにスピーダーを停め、ビリーはスピーダーの情報モニタ
を操作した。
 ネオタンドリー。人口132万人。大河、コウラン川の交通の要所として発展した
都市で、近くに鉄鋼石の採掘所があり、産業もそれなりに順調のようである。が、宇
宙関係の部品が入手しやすいとは思えない。
 注文などという悠長な事は言っていられないので、このまま、だましだまし持って
行くしかない。
 とりあえず、今は自分自身のメンテナンス、つまり、休息と食事を優先させること
にした。
 スピーダーのトランクからサバイバルキットのケースを取り出し、市街地中心か
ら、多少外れたダウンタウンに徒歩で向かった。
 サバイバルキットというのは、ビリーが自分で揃えた非常用のパックである。
 一応、非常用と言う事になっているが、その中身には食料や固形燃料などが入って
はいるものの、組立式ライフル、爆薬、戦闘用の道具等が揃えられており、どちらか
と言うと戦闘道具一式という方が正解かもしれない。
 当然、その手の物の所持が禁止されている国では、充分「ヤバイ」代物である。
 サバイバルキットを背中に背負いながら、手持ちのニュースパレットを、街角に設
置されている情報提供機に差し込み、ネオタンドリーの情報を取り込む。
 ネオタンドリーは川べりに、貨物船の発着場が広がり、その周りを取り囲むよう
に、商業地区がある。
 官公庁街はその外側、そして住宅街、工業地区が広大な平野を良い事に同心円状に
広がりを見せていた。
 ビリーがいるのは、その下町と言うべき、工業地区と住宅街、そして商業地区の境
界あたりである。
 そして、"お上りさん"よろしく、ニュースパレットを見ながら街角をキョロキョロ
しながら街を歩いていった。  
 ふと、ビルの谷間の細い路地にさしかかると、ひょいといった風に、その路地に入
っていった。
 そして、なにげない、それでいて素早く無駄のない動作で、ジャケットの前を開
け、左脇下からハンドガンを取り出し、今来た方向に銃口を向けた。
 その直後、その照準の先に、一人の男が飛び込んできた。
 真っ黒のサングラスをかけ、耳や鼻に数えるのが大変なほどのピアスをつけた黒人
系のその男は、目前の状況に声も出せない。
 そのかわりに口を開いたのがビリーだった。
「俺も荒っぽい事は嫌いなんでな、俺を付けてきた理由を話すか、2度と俺の目の前
に現れないか。どっちかを選んでもらえると助かるんだが?」
 穏やかな口調だったが、その目の光は男を震え上がらせるには充分すぎるほどだっ
た。
 ゆっくりと両手を挙げながら、その男は震える声でこう答えた。
「ちょ、ちょっと待ってくれねえか・・・。 あんた、ビリー・ロウェル・・・ さん、だ
ろ?」
 男がなぜそう言う切り出し方をしたのかは判らないが、自分の名前が出た事はビリ
ーの警戒心を増幅させる結果となった。表情を変えずビリーは続けた。
「・・・ 先に質問に答えてもらおうか。理由、話してもらえるのかな?」
「あ、ああ。もちろん。 ・・・あんた、国際手配されてるの、知ってるかい?」
 『なんとまあ、そんな事になってるんか!?』
 正直そう思うビリーだったが、そんな困惑は微塵も見せない。
「俺がビリーとやらかどうかは置いといて、すると、あんた、警察関係の人?
 ちょと、そうは見えんが?」
「そ、そう。その逆、俺はレイリー。レイリー、オラウ。職業はビルの清掃員で、市
民証だって持ってる。
 ただ、副業でキャプチャーやってんだ」
「キャプチャー。情報屋か? ま、そんな感じだな。それがなんで俺をつけ回す。俺
が、なんで、ビリーとか言う人間だと思った?」
「そりゃ、あんた。砂まみれのスピーダーで来たら、嫌でも目立つだろ?
 今、出回ってる情報の中で、条件にあうんだよね。そういう人。
 だから、あんたがビリーかどうか確かめるために付けてたって訳さ」
 正直『参ったなあ』と思うビリーだった。スピーダーは地上では確かに目立つ。だ
が、ひとつ引っかかる。
「情報ってなんだ?」
 だが、今度は情報屋であるレイリーの立場の方が上だった。
「そりゃ、教えられないなあ。あんたが、ビリーって人じゃないなら、ただで情報を
売る気はないし、荒っぽい事はあんたも嫌だろ?
 それと、ここまで話したんだ、その、物騒な物、おろしてくれねえか? 心臓に悪
いぜ」
 しかし、ビリーも素直には要求には応えない。このあたりは、腹のさぐり合いと言
うべき駆け引きが必要なのだ。
「じゃあ、市民証を見せてもらおうか。そうしたら、とりあえず銃は降ろす」
「疑り深いお方だねえ。内ポケットにあるんだが、取りだしていいかい?」
「一応、ゆっくりな」
「はいはい」
 お互い、そう言ったことに慣れているのか、無駄のない会話と共に、レイリーの内
ポケットからカードが取りだされた。
「ほらね。間違いないでしょ?」
 写真付きの市民証は、この国の規格の物だが、偽造ではないことぐらい、ビリーで
もわかる。
「わかった。それで用は?」
 銃口を下げながらビリーが聞いた。
 だが、レイリーも「その前にそっちも」と、ビリーにも証明証の類を見せることを
要求した。ビリーにしても、『ま、当然か』と、トライアローの登録証を見せた。
 これで互いの身分を確認しあった事になるのだが、レイリーの答えは効果を考えて
か、手の内を隠したか、ごく、短いものだった。
「獅子の嫡子」
「え?」
「獅子の嫡子だよ」
 ビリーがリアクションをおこすには、数秒の間隔を要した。
 正直言って、この手の交渉事は得意な方ではない。しかし、手持ちのカードである
程度「ヤマを張る」場面になっている事が確かな以上、最大限の譲歩(情報)を得なけ
ればならないのだ。
「どうしてそれを?」
 ビリーの切ったカードは、結果的に最善の物だった。
「どうしたもこうしたも、そっちの世界じゃ大騒ぎになってるぜ。
 表向きは殺人事件の容疑者って事になってるが、そんなもん、大嘘だって事は丸わ
かりで、問題はそっちの方さ」
「俺としちゃ、どっちもいい迷惑な話だな。そのおかげで、命を狙われ、こんな苦労
してんだ。誰かが欲しいのなら、ノシをつけて贈ってあげたい気分だぜ」
 「ノシ」と言う意味がレイリーには判らなかった。が、それ以外の部分で驚きの表
情と共に、それに相応する声を上げた。
「あげちまう!? アーユーキディング!? 76兆レートだぜ。それをあげちまう
ってのかい!?」
 76兆レートという金額に、ビリーは表情を押し殺す事に完全には成功しなかっ
た。
 だが、レイリーの方も自分の言った言葉に納得したように、ビリーから視線をそら
しながら、独り言をもらしていた。
「だよなあ、普通の人間には桁が違いすぎるからなあ。
 俺だってビビッまうだろうなあ」
 ここでビリーはカマをかけた。
 考え込むような態度でボソリと言った。
「俺の聞いた話とはだいぶ違うなあ」
「・・・? どう言う事だい?」
 怪訝な表情を浮かべるレイリーに、ビリーは演技力を動員して答えた。
「いや、確かに価値がある物だから、と依頼は受けたが、そんな桁になるなんてのは
契約違反もいいところだ。
 本当のところ、獅子の嫡子ってなんなんだ?」
 呆れたような表情でレイリーは口を開いた。
「そんな事もしらないで依頼を受けたのかい!?」
「条件次第というのは、そう言うことさ」
「獅子の嫡子ってのは・・・」
 とレイリーが答えようとしたところ、ビリーはそれを右手を開いて遮った。
「ま、こんな所で立ち話もなんだ、場所を変えて続きを聞こうか?」

ご案内のメニューに戻る
メインメニューに戻る
続きのページへ