王女とトライアロー(14)
睡眠時以外、さしたる休息時間も無いまま、チャーター船は、カイザルジュニアの衛
星軌道上に到達し、シャトルを利用して空港に降り立った。予定通りの行程だった。
カイザルジュニアは、首星、カイザルのすぐ外側の惑星で、現在、惑星改造が行われ
ている段階だった。
カイザルジュニアと言うのは、正式な名称ではなく、惑星改造が終了すれば、正式名
称が改めて命名される事になるだろう。
現在、暫定的に、カイザルジュニアと呼ばれるのは、多くの移民者が、すでに移り住
んでいるからである。惑星改造の途中とは言え、それは最終段階にさしかかっており、
居住する事に、実質的な不都合はないのだ。
もともと、惑星改造を直接請け負う業者に始まり、その業者に供給する、衣食住のサ
ービスを請け負う者が多数移住。先物買いに近い移住をする者もいれば、ホテルなどの
宿泊施設を初めとした観光業を、営んでいる者もいる。
警察や消防、その他、各行政サービスの出先機関が置かれており、当然宇宙港もある
わけで、一時的なものとは言えすでに人口は200万人を突破しており、すでにいくつ
かの街が点在し、一番の「都市」は人口約30万人とまでなっていた。
もっとも、これだけの小さな国家規模の入植者があろうとも、行政上の管轄は、いま
だに首都、ヘム=リオン市になるのだが…。
おそらくこの星の「州都」になるであろう、その最大の都市はディアオールと呼ばれ
ていた。
不思議と言えば不思議だが、この街は当初、空港からほど近いところに建設予定だっ
たのだが、そこから10kmほど、離れた位置に形成されていた。
結果的に、空港からは20km程離れ、交通の便が悪くなってしまったため、都市計
画者が嘆いたと言う逸話が残っている。
交通機関は未整備ではあるが、もともとの人口比率が低いので、車で移動すれば、さ
して不便でもなく、警察関係者の護衛を受けながら、グレイススリック達はディアオー
ルに到着した。
「予定通りです」
スケジュールを確認しながら、ナビアがグレイススリックにそう告げた。
「お見事ですね。
関係者の方々に、感謝しなければなりませんね」
グレイススリックがそう答える。
『確かにその通り』
ビリーとしても、同感だった。
惑星間の移動で、予定通りに行動することが、いかに難しいか、それを職業にしてい
るビリーは身をもって知っている。
結果論かもしれないが、それを事もなげに成し遂げてしまうスタッフには、感嘆せざ
るを得ない。それは、社会システムの安定を意味しており、この国の底力のようなもの
さえ感じさせた。
確かにそれは救いにはなったが、完全に気を晴らせてくれるものではなかった。