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恋愛モードにスイッチオン(1)
人を好きになると言う事がどう言う事か、ずっと考えていた。
でも、現実になっても、・・・それは余りにも突然で・・・
それは6月の晴れた日の午後、日直で職員室に行った時の事。
「半分、持とうか?」
そういう言葉と、やさしい笑顔に、心のモードが切り替わった、その瞬間。
「好きな人!?」
「マジか?」
朝のホームルーム前。女子二人、男子一人と言うメンバーが、雑談をしていた時、
そんな声が上がった。
「好きな人、出来たみたい」
そのうちの一人の少女が、思い切って言ったその言葉に対する、残りの男女からの
反応だった。
「高一にして、藍も、やっと初恋か。なんか安心」
そう言われた少女は、自分の席に座っていた。小柄で椅子に座っているとさらに小さ
く見える。実際、身長も150cmを切る。
ショートボブの髪、大きめの瞳、多少のそばかすを本人は気にしている。
彼女の制服の胸につけられたネームプレートには、
「1−B 本沢 藍」と刻まれていた。
それに対する男女のプレートには、
「1−B 豊田 由依子」
「1−B 江ノ島 明」
という名前がある。
藍と言う少女の初恋を喜ぶのは、豊田由依子だった。
ショートヘアと、165cmという多少高めの身長から、ボーイッシュな印象がある。
彼女は、藍の机の正面に立ち、多少からかうような口調で言った。
「わたしゃ、この娘、人並みに恋愛とかができるようになるのかって、本当に心配して
たんだからね」
それに続いたのが、江ノ島明だった。
中肉中背、日焼けした肌、スポーツ刈りにした髪型、加えて、いかにもと言う体型。
どう見ても、なにかスポーツをしていると感じさせる外見だった。
「まあ、ガキの頃からの腐れ縁だからな。お祝いでもするかね?」
二人の間、机の横に立つ、江ノ島明の言葉だった。
「江ノ島は、多少、面白くないんじゃない?」
「あのなあ、豊田。こんなちんちくりんに、女感じると思うか?」
「ちんちくりんとは何よ!! ちんちくりんとは!!」
藍が見上げて口を尖らした。だが、心底気分を害したようには、とても見えない。
この3人、幼い頃から近所で生まれ育ち、同じ小学校、中学校を経て、高校まで続く
幼なじみだった。
長いつきあいで、異性とかの壁を感じない、兄弟姉妹のような感覚になっていた。
藍が言った事に、正直なところ驚いた由依子と明であったが、嬉しいことには違いが
なかった。
なにしろ、藍は今まで恋愛と言うものに、とんと無頓着、無関心だった。
興味がないわけではないのだが、そう言う感情を抱くことが、全くなかったのであ
る。
由依子も明も、それに対して、多少の心配を抱いてたのだ。
「で、相手は誰? 教えてくれるんでしょ?」
興味津々。まさにその言葉通りの表情で由依子が聞いた。
恥ずかしそうな表情を浮かべながらも、聞いて欲しくてしょうがないという心境が隠
せない藍が、ちょっとはにかんで答える。
「江ノ島はテニス部だから知ってるかな? 2年生の人なんだけど」
「なに、2年の人」
問いかけられた明ではなく、由依子の声だった。
「そう。2年の、吉野さんって人なんだけど」
「吉野さんん!?」
「吉野先輩っぃ!?」
前者が由依子、後者が明の声だった。
「あ、あんた。何言ってるの!?」
半分あきれたような口調で由依子が言った。
「え?」
「え?って、藍。吉野さんを知らないの?」
「有名な人?」
「嘘でしょ。テニス部のエース。
ニックネーム、ハイパーポテンシャルの吉野将さんを、本当に知らないの?」
「うん」
屈託なく答える藍に、由依子は自分の額に右手を当て、あきれたように首を振る。
「あー、頭痛い。
江ノ島。タッチ」
その声に答え、明が質問する立場となった。
「この前の体育祭、声援が上がったの覚えてない? 吉野さーんって?」
そう言われ、藍はポンと手をたたいた。
「ああ、あの人。あの人か。
じゃあ、人気、あったりして?」
「あー、わたしゃ情けないよ。いくら恋愛関係に疎くたって、人の話題ぐらい、頭に入
れときなさい」
困り果てた表情で由依子が言った。
これ以上、何か言われるのは癪なので、藍は明に聞いた。
「江ノ島ぁ。そんなにすごい人なの?」
「まあね。一度、テニスコート来てみろよ。
フェンスの周りに、先輩目当てのギャラリーがいるくらいだからな」
「そうかぁ。そんなに人気があるのか。
そりゃ、そうだよね。あんなカッコいいんだもん」
「だけど、吉野先輩は、やめとけって。マジで」
「なんでよ? ライバルが多くたっていいじゃない。好きになるぐらい」
「そうじゃなくて、もう先輩には、決まった人がいるんだから」
この言葉に口を挟んだのは由依子だった。
「やっぱ、あの話本当なの」
「まあ、間違いないね」
「あの話って?」
「吉野先輩は、3年の藤崎先輩が好きだって事」
「藤崎さん?」
間の抜けた藍の返事に、由依子はひきつった笑顔を浮かべて言った。
「藤崎詩織さん。この学校のアイドルって言われてる人。
お願いだから、誰それ?って聞かないでね」
「誰それ?」
「はあーーっ」
由依子と明は崩れた。
その日直の日、相手の男子とのじゃんけんに負け、藍は一人で日直日誌を職員室まで
届けた。
その帰り、クラス担任の科目である化学の教材を、準備室まで持っていくように言わ
れたのだった。
二重の意味での不満が漏れた。一つは日直の仕事ではないものを押しつけられた事。
もう一つがその量だった。
『どうやって持っていくのよ、こんなに』
2度に分けて持っていく事を考えたころ、一人の男子生徒が声をかけた。
「半分、持とうか?」
振り向いた藍の見上げた視線の先に、テニスウエアを着た少年がいた。
「あー、吉野、頼む。一人じゃつらそうだからな」
担任の教諭が、荷物の多さに気づき、そう声をかけた。
「はい。テニスコートへの帰り道ですから、構いませんよ」
そう言って浮かべた笑顔を、藍は呆然と見つめる。
「ん? どうしたの?
あ、俺、2年の吉野将。
持つ? 一人で、行く?」
ハッと我に返り、藍は大きくお辞儀をする。
「あ、お、お願いします」
「はい」
半分と言いながらも、吉野と名乗った2年生は、教材のほとんどを持っていた。
その後ろをとぼとぼと歩いていた藍だったが、ふと、思い出したように慌てて、口を
開いた。
「あの。吉野さん・・・」
「何?」
「お手伝い、ありがとうございます」
吉野は笑顔でこたえる。
「いいよ。
田口先生も、一人で持てる量かどうか、考えてくれればいいのにね」
そう言った彼の笑顔は、藍の網膜に焼き付くようにまぶしかった。
化学準備室に向かう途中、二人が交わした会話は、それが全てだった。
別れ際も「ありがとうございました」と、礼を述べるのが精一杯の藍だった。
「吉野さんと、藤崎さんが公認の仲なのは有名な話よ」
「ともかくさ、今日の部活来てみろよ。二人とも来てるから」
その日の放課後、由依子と明の言葉に促されるように、藍はテニスコートに足を運ん
でいた。
すでにテニスコートの周りには、十数人の女生徒が詰め掛けていた。
金網越しのテニスコートの中では、日々の練習が行われている。
その光景を見ていた藍は、一人の人物を探していた。
「藤崎先輩!」
一人の部員の声に、藍は反応した。名前を呼ばれた相手を探し、視線を移動させる。
「なあに?」
そう答えた女子を認めた藍は愕然とする。
『ガーーーーン。何よ、この人はぁーーー!?』
意味もなく、藍の背後に雷鳴がとどろいた。
「うわー。なんちゅう、きれいな人」
無意識のうちに、そんな言葉が唇から漏れる。
それは同性から見ても、認めざるを得ない事実だった。
はっきりとしていて、それでいてつぶらな瞳。形の整った鼻筋。まるで絵に描いたよ
うな唇。文句のつけ用のない輪郭に完璧なバランスをなしている。
すらりとした肢体。絹のようなロングヘアー。
藍が夢に抱いた全てのものが、そこに凝縮されていたような女子生徒だった。
『やっぱり、男の人、こう言うきれいな人が好きなんだろうなぁ』
藍はそう思った。打ちのめされた精神状態で、半ば呆然としながら、その女子生徒、
藤崎の事を、ずっと目で追っていた。
そんな彼女のすぐ前を、藤崎が横切ろうとしたその時だった。
藍の視線に気がついたのか、藤崎と視線があってしまった。
「何かしら?」
藍は、辺りを見回す。その質問が自分に向けられたものだと判り、意外な事態に軽い
パニック状態に陥る。
慌てまくったあげくの果てに、自分でもとんでもないと思いつつ、返した答えがこれ
だった。
「け、見学、したいと思って・・・」
『な、何言ってるのよー!? 私はぁぁ!?』
「で、見学しちゃった訳ね」
翌日の朝、心底呆れた風の表情と口調で、明が藍に詰め寄っていた。
「えへへへへ。・・・まずかった?」
「ま、いいけどさ」
予想外の事に、藍はテニスコートの中に案内され、一番端のベンチに座っての見学を
許可された。
「ごめんね。練習の邪魔になると困るから、ここから動かないでね」
優しい口調でそう言われ、藍は結局、練習終了まで見学をすることとなってしまっ
た。
「見学なんて、今までなかったんだけどね」
明の言葉に意外だという表情で、藍が聞いた。
「ない?」
「んー、ほら、四月五月は、新入部員が多くって、見学どころじゃなかったから」
「なんで?」
「なんでって・・・」
と明が言いかけた時、由依子が登校してきた。
「おはよー」
「オッス。聞いてよ、豊田」
「何?」
「本沢、昨日、テニス部の練習、見学してやんの」
「え?」
かばんを自分の席に置いてから、二人のところにやって来た由依子が聞く。
「見学って、藍、まさかテニス部に入部するつもり?」
「入部?」
その単語は藍にとって、考えてもみないものだったが、それ故、甘美な響きとなっ
た。
入部すれば、吉野と接近する機会が増えると思えたからだ。
だが、それをあっさりと明は否定する。
「吉野先輩目当てに入部するってんなら、やめとけ、やめとけ。
そう言うの先輩、大っ嫌いだから」
「え? そうなの」
「そう。今年、新入部員が多いのは、それが理由。
練習が厳しくって、ポロポロやめてって、ようやく今のように落ち着いたわけ。
だから、先輩だけが目当てで入部するのは、逆効果。
やめとけって、ぜってー」
妙案だと思ったのに、あっさり却下され、藍は机に突っ伏す。
「くそー。それじゃ、吉野さんにどうやってアプローチすんのよぉ」
明と由依子は、同時にため息をつく。
「だから、吉野先輩はやめとけって」
「そうそう」
「ひっどーい! 由依子、少しは応援してくれたっていいじゃない」
「応援したいのは、山々なんだけど。相手がねえ。
あの藤崎さんだよ。あんた、勝ち目、あると思ってるの?」
きつい一言に、藍はたじろぐ。それは自分でも、真っ先に考えたことだからだ。
これが性格が悪いとか、裏表があると言うのならまだしも、その態度や、明の言葉か
らも、それは望めないと言うことも判っていたからだ。
「でもでも、年上でしょ?
それに、周りがそう思っているだけで、本人同士は別に何とも思ってたりするじゃな
い。マンガだとさ」
「あー、ないない。それはない、絶対。
先輩たちに限っては、それは絶対ないから。そう言う期待するな」
明も由依子に負けず劣らず、直球勝負だった。
「ひっどーい、二人とも。
少しは応援してくれたっていいじゃない!!
最初から駄目だって決めつけてぇ!!」
これはかなり本気で、怒気がこもった言葉だった。
言いすぎたことを悟った二人は、慌ててフォローに入る。
由依子が一段低い口調で言った。
「ごめん、ごめん。
でもね、藍は人を好きになった事がないでしょ?
それがいきなり吉野さんでしょ。だから心配なのよ。
・・・藍って、ほら、突っ走っちゃう方だから・・」
だが、藍の機嫌が直らないまま、朝のホームルームの時間となってしまった。
結局、一日、藍は不機嫌なまま、放課後となってしまった。
さすがにこれには、由依子も明も参ってしまった。昔からこう言う時、一晩置けば、
機嫌が直るのだが、今回はいつもより重症だった。
根気負けしたかのように、明が言った。
「判ったから、ごめんって。
駄目かもしれないけど、とりあえず、先輩にそれとなく本沢の事、話してみるから」
「ほ、ホントに?」
「ああ。でも、俺だって上級生は怖いんだから、あんまり期待するなよ」
「うん。うん」
明の言にもかかわらず、期待に満ちた目で、藍は明の顔を覗き込む。
『そんな目で見るなよぉ〜』
内心でそんなことを思いながら、明はこうも言った。
「それと、ちょっと時間くれ。
こう言う私的なことも、先輩、あんまり好きじゃないんだ」
「うん! 判った。お願いね。江ノ島」
「あ、ああ」
思わぬ言質を得たことで、上機嫌となった藍は、跳ねるように帰宅の途についたのだ
った。
「いいの? あんな約束しちゃって?」
その会話の一部始終を聞いていた由依子が、明に聞いた。
「だって、しょうがないだろ? ああでも言わなきゃ・・・」
「まあ、そうだけど」
「一ヶ月ぐらい時間を置けば、あいつだって、頭が冷えるよ」
「だと良いけど・・・」
由依子の危惧は的中した。
藍の吉野に対する熱は、冷めるどころか日に日に高まる一方だったのだ。
吉野の話題は、なんでもかんでも首を突っ込み、どこから手に入れたのか、彼のスナ
ップを手に入れたりしたりと、ヒートアップしていた。
「私の言った通りだったでしょ?」
「まいったなあ。本当かよ」
由依子に詰め寄られ、明は困り果てたような表情となった。
実のところ、藍に言ったとおりの事を、明は出来ていないのだった。なかなか、そう
言った事を話す機会に恵まれず、ズルズルと時間だけが過ぎ去っていたのだ。
だが、そんな明にも転機が訪れた。部活動の時、吉野の方から、「何か、悩みでもあ
るの?」と、明に聞いてきたのだ。
数日間、吉野に何か言いかける素振りをしながらも、結局、言葉を飲むような様子
は、吉野の方も判っていたのだ。
一瞬、戸惑ったのものの、この機会を逃すことはない。
「実は」と切り出した。
「苦労したぜ」
明は、ちょっと自慢げに藍にそう言った。
吉野に話した後、その足で明は藍の家を訪ねた。その玄関先でのことだった。
「ほんと? ほんとに吉野さんと会えるの?」
「ああ。夏休みに入って、最初の練習日。終わるまで待っててくれたら、テニス部の
部室の裏に来てくれるって」
「すごいよ。江ノ島。あんたって、言うだけじゃないんだねえ。
ありがとう。本当にありがとう」
藍は明の手の握り、ぶんぶんと上下させながら握手した。その手を話してから明が聞
いた
「でも、突っ走るのはいいけど、本気か?」
「うん。
どうせ、学年違うし、会う事も、そうないでしょ?」
「そうだけどさ」
「ホント、ありがとね」
その笑顔に、少し胸が痛くなった明だった。
指定の日、テニス部の部室の裏で、藍は練習が終わるのを待っていた。
「本沢、藍さん?」
その背中から、声がかかった。間違うわけがない吉野の声だった。
テニスウエアのその姿は、初めて会った時と同じものだった。
「はい! 本沢藍です。き、今日はわざわざすいませんでした」
「いいよ。エノくんの紹介じゃ、断るわけにはいかないからね」
その言葉に、藍の心の中で『え?』と言う言葉が漏れた。それは、結局、明の紹介で
仕方なく会ってくれたという事ではないか?と言う疑念の現れだった。
そんな考えが浮かぶ藍が、何も言えないでいたわずかの間に、吉野が言った。
「あれからどう? 日直の時、大量の教材、片付けさせられてない?」
「え? あの時の事、覚えてくれてるんですか?」
「うん。それに練習、よく見に来てるでしょ? 顔は忘れてないよ」
にっこりとそう言われ、藍の動悸が早まる。
だが、それで終わってはいられない。本題を切り出さなければ意味がないのだ。
「あの、今日はですね。・・・あの、ですね・・・」
思い切ろうとするのだが、言葉がなかなか出てこない。
「いいよ。慌てなくて。時間は取ってあるから」
そう言われて、多少、気分が治まる。
やや、視線を下げる。とても、吉野の表情を見ながら言えるとは思えなかった。
「私、吉野さんの事が好きです。
良かったら、お付き合いしてください」
数日前から、何度、練習してきた言葉だろうか? たどたどしい口調ではあったが、
なんとか、自分の言いたいことを言えた。
恐る恐る視線を上げると、そこには、やや、困ったような笑顔になった吉野がいた。
「ありがとう。気持ちはとっても、嬉しいよ。
本沢さんが、とってもいい人だというのは、エノくんから聞いているし、彼が言う事
だから確かだろうね。
そんな本沢さんが、そう言ってくれるのは、本当、嬉しいよ。
だけど、俺にも好きな人がいるんだ」
そこまで言うと、両手をポンとあわせてからこう言った。
「君の想いには答えてあげられない。ごめんね」
不思議とショックはなかった。藍は、実に冷静にその言葉を聞いていた。
「は、はい。
たぶん、そう言われるんじゃないかな、て思ってました。
藤崎さん、・・・ですよね?」
「・・・うん。本当にごめんね」
「いいんです。今日、来てくださっただけで・・・本当に、今日はありがとうございま
した」
ペコリと頭を下げると、そのまま後方に三歩ほど下がる。
吉野がすこしうなずいた姿を確認した後、藍は背を向け、駆け出していた。
校門の所に、由依子と明がいた。
普段通りの表情の藍に、多少面食らいながらも、3人は同じ帰り道を無言で歩いてい
った。
「私」
突然、藍がそう言って、彼女の左右にいた由依子と明は、体をビクッとさせた。
「私、結局、恋に恋してたのかなあ?」
予想していなかった藍の言葉に、由依子と明は顔を見合わせる。
何も言えないでいる二人に構わず、藍は続ける。
「失恋したって言うのに、あんまり、ショックがないんだよねえ。
変なの」
「大丈夫。そのうち、ちゃんと好きな人が、藍にも出来るから」
「そうそう、初恋は実らない。って、昔から言うだろ」
「江ノ島。それ励ましてるつもり?」
懐疑的な由依子の視線に、明も反発する。
「うるせえな。本人だって、意外とそう思ってたりするだろ?」
その声に、藍が答える。
「うーん、そうかも知れない」
家に帰り、いつものように夕食を取り、いつものようにお風呂に浸かり、いつもの
テレビを見た後、藍は自室のベッドに座り込んだ。
「なーんか、疲れちゃったなぁ」
そう言ってベッドの傍に目をやる。そこにはフォトスタンドに収められた吉野の写真
があった。
そのフォトスタンドを伏せて、自分もベッドにうつ伏せになり、枕に顔をうずめた。
『今日は、泣いちゃお。
そしたらきっと、明日は元気になれる。
だって、恋愛モードに入っちゃったみたいなんだもん』
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