愛を知る名前72-Line
 
 
 赤やピンク等の色鮮やかな数十本の枝が、ベビーベッドの上でくるくるとまわり、
柔らかい音が螺旋状に降りそそいでいた。
 その音の下、小さいベビーベッドも広すぎるようなほど、さらに小さな命があった。
 生後間もないであろう赤ちゃんが、笑顔にも取れそうな表情で、あたかも何かを掴も
うと両手を中空に伸ばしていた。
 その姿を覗き込む、二組の男女がいた。
 やや年配の男性が言った。
「愛情の愛と書いて、めぐみかね?」
「はい。愛にめぐまれますようにという、想いを込めました」
 その声に、若い男性が答える。その横の女性も同時にうなずいた。
「いい名前じゃありませんか、お父さん」
 年配の男性の横にいた、その男性と同年代に見える女性が言った。
 その愛と名付けられた赤ちゃんを、表情を崩しながら見つめ、その年配の男性は本当
に嬉しそうに言った。
「初孫か、年を取るわけだな」
 
 その名のように、その赤ちゃんは家族中の愛情を集めて育った。
 やがて、赤ちゃんは幼女となり、少女となっていった。
 
 
 
「めぐみ、およめになんか、いかないもん」
 遊園地、父親に背負われた少女は、その広い背中に向けて言った。
「そうか、そうか。お父さん嬉しいよ」
「もう、お父さんたら、そんな事を」
「いいんだ、愛はどこにもやらん!」
 それは父親としての、複雑な感情からの言葉だった。
 
 時はさらに流れ、母親が言った。
「担当の先生から聞いたのですが、愛はどうも、男の子とのお付き合いが苦手なそうな
んです」
「それがどうした? かえってその方がいいじゃないか?」
「そうも言っていられませんよ。
 女の子のお友達は多いそうなんですけど、このままでは心配で・・・」
 左の頬を抑えた母親の心配そうな表情に、さすがに父親も声をなくす。
「うーーむ」
 その時、二人がいたキッチンの扉が開いた。
「大丈夫ですよ」
「・・・お義母さん」
 父親の視線の先には、年配の、もう初老に近い女性が立っていた。
「こう言うのは遺伝するんですかね? うちの娘も小さい頃は、それはもう男の人が苦
手な娘でしたよ」
 そう言われて、母親は照れくさそうにうつむいた。
「え? そうなんですか?」
「はい」
 うなずく、二人の女性。
「それが、どうして、今は平気になったんだ?」
「そ、それは・・・」
 母親が口ごもるのを見た年配の女性が、助け船を出す。
「その理由を聞けば、きっと不機嫌になりますよ」
 微笑みながらそう言われて、父親は首を傾げた。
 
 
 
 月日はまるで川の流れのように過ぎ去っていき、少女は高校を卒業する日を迎えてい
た。
 
 この日、少女は、校庭の木の下で、勇気を振り絞り、一つの壁を越えた。
 それは、また、新しい門出でもあった。
 
 愛にめぐまれ、愛をめぐみ、愛を知った高校生活。
 
 
 そして少女は大人になる。
  
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・終わり
 
 後書き。
 
 うーーん。お蔵出しとは言え、ひゃーー、恥ずかしいですねえ。
 なんか照れてしまいます。
 メグメグの半生(^_^;)を、駆け足で綴った事になるのでしょうか?
 で、今現在、このお父さんの立場なのだという、感慨にふけっており
ます。
 うーーん、嫁にはやらんぞ!!(大爆笑)

  
 
 

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